タコと高齢女性の“異種間交流”を描く 『親愛なる八本脚の友だち』が共感を集めた理由

 “海の賢者”と異名を取るほどに、高度な知性を持っているタコ。そんなタコと、霧深い港町で孤独に生きる高齢女性との交流を描いたベストセラー小説が映画化され、『親愛なる八本脚の友だち』としてNetflixからリリースされた。

 主人公のトーヴァを演じているのは、『ノーマ・レイ』(1979年)や『プレイス・イン・ザ・ハート』(1984年)でオスカーを受賞した名優サリー・フィールド。人生に迷う青年キャメロンをルイス・プルマンが演じている。また、『スパイダーマン2』(2004年)で「ドクター・オクトパス」を演じたアルフレッド・モリーナが、タコのマーセラスの声を担当しているのが面白い。

 本作『親愛なる八本脚の友だち』は、配信開始から多くの視聴者の心を掴み、大手レビューサイトでも高い評価を獲得している。ここでは、そんな本作がなぜ共感を集めたのか、そして美しい風景と“タコ”という知性を借りて何を描き出したのかを深掘りしていきたい。

 舞台はアメリカ北西部、ワシントン州の小さな入り江の町。サリー・フィールドが演じるトーヴァは、小さな水族館で夜間清掃の仕事をしている。高齢で身寄りがない彼女は、そろそろ仕事を引退して施設に入ることを考えていた。そんなトーヴァの密かな話し相手が、水族館のタコ、マーセラスだった。本作は、頭脳優秀なマーセラスを語り部にして、彼から見た人間模様を描いている。

 そして、この町に現れるもう一人の主人公が、ルイス・プルマン演じるキャメロンである。自分の父親を探す旅のなか、乗っていたバンの修理が必要になったため町に足止めされてしまう、若い放浪者である。トーヴァが怪我をしたことで、キャメロンは水族館の清掃の仕事を引き継ぐことに。この出会いをきっかけにして、トーヴァとキャメロンは、それぞれの過去の真相に近づいていくこととなる。

 本作で際立って素晴らしいのは、やはり美しい風景だろう。『ザリガニの鳴くところ』(2022年)を手がけているオリヴィア・ニューマンは、土地にまつわる人間模様を描いていくという共通点を持った本作において、「合成用のグリーンバックは使いたくない」という信念のもと、カナダで撮影を敢行した。アメリカ映画がカナダで撮影されるのは、税金や物価など金銭的な事情による場合が多いが、本作の選択の理由は、それだけではない。

 撮影地に選ばれたのは、地理的にも近く同様の地形的特徴を持つ、バンクーバーで奥まった湾が形成されているディープコーブ地域だ。山が海の中に落ちているような閉塞的地形は、どこか夢に出てくるような不思議な印象を与え、本作に神秘性と懐かしい雰囲気をもたらしている。また、水族館も現地のものをそのまま利用している。

 そこではグリーンバックの処理では得られない、大気の冷たさや湿った空気の重み、そして霧の粒子などが、俳優がそこにいることでリアルに感じられる。入り江独特の風景と、湖のように優しい波が生み出す静寂は、北欧のフィヨルドのような美しさを纏っている。この歴史がより深いヨーロッパ的な質感が、主人公トーヴァが抱え続けてきた歴史や時間感覚と見事に共鳴し、観客を物語に引き込む。

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