増田セバスチャンが語る「KAWAII」の真髄 次世代へ受け継がれる遺伝子と想像力という武器

「今はもう、何をどれだけ残せるかっていうフェーズ」

――「KAWAII」カルチャーが、ここまで世界に広がった理由について、増田さんはどのように考えていますか?

増田:やっぱり、表面的なものだったら、ここまで世界に広がらなかったと思うんです。これはニューヨークに拠点を移してから、改めて感じたことなんですけど、向こうの人たちにとって「KAWAII」は、もはや精神的な支柱みたいなものになっているんです。いろいろとストレスの多い日々の中で、これがあるから一日頑張れるとか、何日後にその集まりがあるから、それまで頑張ろうとか。そういうものになっていることに気づいた。というか、日本はそういうストレスの「抜き方」の手段がたくさんあるように思うけど、アメリカって、そういうものがほとんどないんですよ。極端な話、ドラッグとか犯罪しかないっていう。

――なるほど。

増田:それが向こうに行ってからわかったことであって。自分がニューヨークに来た理由も、そこにあるのかもしれないっていう。本当は、自分が今まで日本でやってきたことが、アメリカでどう受け止められるか、ちょっと試したいみたいなところがあったんですけど、いざ向こうに行ってみたら、むしろ必要とされていたっていう。あとひとつ、「KAWAIIって、こういうことだよね」っていう「正解」を作らなかったことも、結構大きかったんじゃないかなって思っていて。今の世の中、みんな「正解」を探そうとしているじゃないですか。で、それがうまくいかなくて、悩んだりする。だけど、人の生き方に「正解」なんて、ホントはないんですよね。それは、人それぞれであるっていう。だから、自分がよく言うのは、「KAWAII」っていうのは、必ずしもカラフルなもの、派手なものではなく、白でもグレーでも黒でも、何でもいいんですよ。自分がそれを好きで、愛でることができるなら、それは全部「KAWAII」なんです。「KAWAII」っていうのは、自分だけの小さな宇宙を作ることだから。なので、100万人いたら、100万通りの「KAWAII」があっていいと思うんです。

――もはや、ひとつの「概念」であり「哲学」であるような……。

増田:そう。その人にとっての精神的な支柱であると同時に、ある種の哲学として「KAWAII」があるっていう。だからこそ、ここまで世界中に広がっていったんじゃないかと思います。

――そうやって増田さんの「KAWAII」が世界中に浸透していく一方、ここ日本では「KAWAII LAB.」のアイドルたちをはじめ、増田さんの「KAWAII」をさらにアップデートさせたものに、近年大きな注目が集まっているように思います。それについては、どんなふうに見ていますか?

増田:新しいものが出てきているのは、すごくいいと思うし、アップデートするのもいいと思っています。さっき言ったように、「KAWAII」というのは、人によっていろんな捉え方があると思うから。ただ、KAWAII LAB.に関しては、総合プロデューサーの木村ミサちゃんとは、もう結構長いつき合いだし、そもそもFRUITS ZIPPERの1stシングルCDのときにコラボレーションしていて……あと、まなふぃ(真中まな)か。彼女は「(私がプロデュースした)KAWAII MONSTER CAFE」の出身なんですよね。あと、新しい学校のリーダーズのMIZYUは、以前「6%DOKIDOKI」で働いていて……そう考えると、みんな繋がっているかもしれない(笑)。

――たしかに。

増田:そういう意味では、自分が作った「KAWAII」の遺伝子が受け継がれているようなところがあって。そういうものが広がっているのは、単純に嬉しいなって思います。それこそ、自分が若いとき、大人たちに見せられた未来とは、まったく違ったものになっているような気がするし。

――そうですよね。かつてのモノクロームな未来像とは、かなり違ったものになっていると思います。

増田:そうですよね。どこかに行って、ぬいぐるみと一緒に写真を撮るとか、あの頃は全然考えられなかったじゃないですか。ただ、その一方で、窮屈な世の中になっているようなところもあって。今回の展覧会の題名じゃないけど、「天国(ヘブン)」ではなく「地獄(ヘル)」に向かっているような感じも、ちょっとありますよね。

――そう、今はいろいろな「KAWAII」がありますけど、増田さんの「KAWAII」は、両義性があるというか、かわいらしさの中に狂気や毒気があるような気がして……。

増田:まあ、そうですね。特にアート作品の場合は、その毒気が強く出ているというか、そこが自分にとっては重要なんでしょう。表面的にかわいいものの奥底にある狂気みたいなものも、一緒に表現したいっていう。かわいらしい子どもが、夢中になってアリをつぶしていたりするような――それが意外と人間の本性なんじゃないかと思っているんですよね。人間の持っている衝動というか。それを表現したいみたいなところはあるのかもしれないです。

――なるほど。それでは最後、増田さんのファンの人たちに向けて、何かメッセージを。

増田:今回の展覧会に関しては、みなさんの感じるままに、楽しんでもらえたらいいなって思っています。通常の個展とはちょっと違う場所というか、ミュージアムの中だけではなく、湖に浮かぶ小島「KAWAII-CORE ISLAND」にボートで行くと、そこに最後のメッセージがあるなど、いろいろ趣向を凝らした展示になっていて。それらの展示を「体験」することで、生きるヒントじゃないけど、もうちょっと生きやすくなるヒントみたいなものを見つけてもらえたら、それがいちばん嬉しいなって思っています。

――増田さんの作品には、その裏テーマとして「生きづらさ」みたいなものがあるのでしょうか?

増田:そうですね。やっぱり自分も、地元に馴染めず原宿に来たっていうのが、そもそもなので。地元だったらひとりだったけど、原宿に来たらひとりじゃなかったっていう。そういうことを言うのが、昔はちょっと苦手だったんですけど、コロナ禍のときにロックダウンして、みんなひとりの時間があったじゃないですか。あのときに、いろいろわかったことがあったというか、自分のファンは、そういう生きづらさみたいなものを感じている人たちが多いんだろうなっていうのはわかっていたけど、それまではそれを、なるべく見ないようにしていたんですよね。だけど、ロックダウンのときに――そのとき初めて、この子たちの価値が、すごいわかったっていうのがあって。世代は違っても、同じ仲間だよねってことに、そこでようやく気づいたんです。

――コロナ禍以降、世界中でコミュニティ作りとかワークショップを積極的に開催しているのは、そういう心境の変化みたいなものも関係しているのでしょうか?

増田:そうですね。ただそれは、自分が上に立って、何かを教えるとかではなく……自分のファンの子たちによく言っているのは「Express Yourself(エクスプレス・ユアセルフ)」ってことなんです。自分を表現することが、いかに大事かっていう。それはなぜかというと、自分を表現することは、イコール自分を肯定することだから。今、InstagramとかTikTokで自分を表現している子たちが多いけど、それって他者からどう見られているのかってことばっかりで……表現っていうのは、本当はそうじゃないよねっていう。

――たしかに……。

増田:自分を肯定することが、やっぱり大切だと思っていて。「KAWAII」が好きな人たちは、そのことにいち早く気づいていて――ジェンダーの話とかもそうですけど、「KAWAII」のコミュニティは、早い段階から、いろんなものを超越したところで、自分たちのコミュニティを形成しているように思うんです。これから先、その中から新しい価値観が生まれてくるんじゃないかと思っているようなところもあって……。

――どういうことでしょう?

増田:それこそ、時代をさかのぼれば、1960年代のフラワームーブメントのヒッピーカルチャーの中で、新しい価値観が生まれていった。スティーブ・ジョブズも、多分その端っこにいたんですよね。で、そういう価値感の中から、新しいイノベーションが生まれていったという。だからこれから先、「KAWAII」のコミュニティから、めちゃくちゃ天才みたいな人が現れるのかもしれない。

――なるほど。

増田:やっぱり、コミュニティの在り方自体、以前とは違っていて……場所とかではなく、概念とか哲学で、国境はもちろん、性別すら超えて繋がっていくという。「KAWAII」のコミュニティは、実際そういうものになっているし、「KAWAII」に限らず、そういう形のコミュニティが、これから先、どんどん生まれてくるような気がするんですよね。

――なかなか壮大な話になってきましたけど、感覚的にはすごくわかります。

増田:まあ、自分は壮大なことを言っているだけというか(笑)。それを若い子たちがうまく拾って、形にしていってくれたらいいなって思っていて。自分はもう人生の後半に来ているので、今はもう、何をどれだけ残せるかっていうフェーズなんですよね。なるべくたくさんのものを残したいっていう。だからこそ、今みたいな感じで、いろんなことを同時進行で頑張っているというか、明らかに働きすぎなんですけど(笑)。ただ、それと同時に今、自分の中では、ものづくりのピークに来ているような感じもあって。今はもう、何でも作れると思っているんです。なので、ここからまた、すごく面白くなっていくような気がしているので、引き続き注目していただければ嬉しいなと思っています。

■イベント情報
増田セバスチャン展『KAWAIITOPIA -GO TO HEAVEN(HELL)-』
期間:8月30日(日)まで開催中
場所:ハイパーミュージアム飯能(〒357-0001 埼玉県飯能市宮沢327-6 メッツァビレッジ内)
開館時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
会場:ハイパーミュージアム 飯能
公式サイト:https://metsa-hanno.com/hypermuseumhanno/

【5月16日(土)特別運行】増田セバスチャン展×西武鉄道「KAWAIIトレイン」
申込締切:4月26日(日)23:59まで
詳細:https://metsa-hanno.com/event/44085/

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