小林虎之介は“今すぐ追いかけなければいけない”俳優 どんな役柄にも宿る真面目さと純粋さ
撮影後、小林はインタビューで中沢の芝居を「圧倒的に上手くなっていた。航平の儚さだったり、寂しさだったり、そのなかにある太一への好意だったりを出すことが上手で、涙も毎回出せる」と絶賛しながら、「今初めて言いますが、『もう芝居できねえ』と思っていたくらい劣等感を感じていました」と率直に明かした。これに対し中沢は「毎回涙を出せたのは太一の芝居のおかげで、太一の言葉にエネルギーやパワーがあったので、虎だからこそ出せたものだ」と語っている(※4)。互いの芝居が互いを引き出すという好循環――それもまた、小林の反復するパターンである。
同じ2024年秋、NHKドラマ10『宙わたる教室』で役者としての転換点が訪れた。窪田正孝演じる謎めいた理科教師・藤竹に導かれる定時制高校の生徒の一人、柳田岳人(やなぎだたけと)を演じた作品だ。岳人は発達性ディスレクシア(読み書きの学習障害)を抱え、中学から不登校になり不良として生きてきた21歳。小林は撮影前に歌舞伎町を自転車で何周もした。岳人のつま先を外に向け、重心を低くしてやや大股で歩く身体表現は、歌舞伎町から大久保にかけての夜の街をうろつく男の雰囲気に溶け込んでいた。
『宙わたる教室』は“青春”の始め方を教えてくれる 窪田正孝と渡り合う小林虎之介の名演
定時制高校を舞台にした窪田正孝主演のNHKドラマ10『宙わたる教室』が幕を開けた。本作は、読書感想文の課題図書にも選ばれた伊与原…見せ場は第1話、藤竹にディスレクシアの可能性を指摘されるシーン。今まで字が読めないことで散々馬鹿にされてきた岳人が、顔を真っ赤にして怒りをぶつけ、「なくしたものは取り戻せねえ」と吐き捨てる。ぎらりとした眼光に世の中への怒りが滾る。「岳人は発達性ディスレクシアという学習障害を持っていて、周りの人とうまく付き合うために強がらないといけなくなってしまっただけで、根っこは純粋な子なので、そこをうまく表現できなかったらただのチンピラに見えてしまう」と本人は語る。主演の窪田正孝も終了後に「100%のヤンキーじゃなかったのがよかった」と小林に声をかけた。初回でくすぶる岳人を生々しく焼き付けたからこそ、藤竹と出会って学ぶ楽しさを知り本来の知性を解放していく成長が際立つ。回を重ねるごとに岳人の内側から光が溢れ出すような変化は、この俳優が役を0歳から生きている証だった。
監督の吉川久岳(ランプ)との密度の濃い対話も、この役を成功させた要因だ。「窪田さんが常にリアルさを求めて、監督と『どうやったら自然か』ということを話されていて。その姿を見て、僕も『これはちょっと不自然かも』と思うものは監督と相談させてもらっていました。監督もできるだけ話し合いたいという感じだったので、僕も窪田さん同様、いろいろと相談させてもらっていました」とインタビューで語っている(※5)。
学会発表シーンの撮影ではエキストラを300人近く集めたが、ドラマ第1話放送直後でストーリーをほぼ知らないエキストラが会場で涙を流したという。「監督もびっくりしていた。なかなかない光景だって」と振り返っている(※5)。『宙わたる教室』はギャラクシー賞2024年12月度月間賞を受賞し、第28回日刊スポーツ・ドラマグランプリでは作品賞と助演男優賞の2冠。助演男優賞を受賞した小林にとって、初レギュラーから約1年4カ月でのことだ。
2026年1月、同じ吉川チームが手がけるNHK法廷ドラマ『テミスの不確かな法廷』の第1話にゲスト出演し、「また戻ってこられるように、いいお芝居ができるよう頑張りたい」と語った(※6)。
小林虎之介、『テミス』で『宙わた』制作陣との“再会”に感謝 「また戻ってこられるように」
NHKドラマ10『テミスの不確かな法廷』で主演を務める松山ケンイチと、第1話にゲスト出演した小林虎之介のコメントが到着した。 …改めて、この俳優の軌跡を見渡してみよう。壮磨の“尖り”、太一の“子犬の明るさ”、岳人の“怒りと純粋さの共存”、そして虎太郎の“言葉にならない献身的な愛”。演じてきた役柄はどれも異なる方向を向いている。しかし一貫しているのは、役の人生を0歳から構築し、架空の両親をリアルに想像し、その肉体と歩き方まで作り込み、「その場に立って生まれるものしかない」と言い切るほどの全身全霊の向き合い方だ。役を「解釈する」のではなく「生きる」。その真面目さと純粋さが、どんな役柄にも静かに宿り、画面越しに届いてくる。だからこそ視聴者は、虎太郎の「だべ?」の一言に初恋の記憶を重ね、岳人の「なくしたものは取り戻せねえ」に身の切れるような痛みを感じ、太一の歩き方に青春の眩しさを見てしまう。
デビューからまだ5年余り。しかし毎作品、「今の小林虎之介にしか出せないもの」が確かにある。それが蓄積された代表作として結晶するより前の、削られながら育っていく過程ごと見せてくれる鮮度――それこそが、小林虎之介を「今すぐ追いかけなければいけない俳優」にしている理由だ。
参照
※1. https://realsound.jp/movie/2025/08/post-2117130.html
※2. https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-4616230/
※3. https://realsound.jp/movie/2025/01/post-1911308.html
※4. https://mdpr.jp/interview/detail/4333635
※5. https://thetv.jp/news/detail/1232019/
※6. https://realsound.jp/movie/2026/01/post-2268993.html
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK