『九条の大罪』の“リアル”になぜ誰もが惹きつけられたのか 実写だからこその“食”と“犬”

 壬生はかつて「おもち」というパグの愛犬を飼っていたが、対立する半グレの菅原(後藤剛範)の差し金で、自らの手で愛犬の命を奪う状況に追い込まれてしまう。壬生の全身には、「おもち」へのメッセージとその肖像がタトゥーとして彫り込まれており、彼の行動原理には常に愛犬への愛情と後悔、自責がある。

 また「弱者の一分」には、依頼人・金本(原田泰雅)の飼い犬としてドーベルマンの「ブラックサンダー」が登場する。最終的に金本が半グレ仲間により殺されたため、九条が引き取ることになる。犬という生き物は、九条の依頼人たちのように自らの理屈で弱者をもてあそんだり、世間のように道徳を振りかざして九条を指弾したりすることもない。彼らはただ生を全うすべく懸命に生きている。食事と同じように、犬が九条たちの支えとなっているのだ。

 この要素も漫画から引き継がれているが、「ブラックサンダー」を飼うと決めた九条に対し、壬生が「犬を飼うというのは生半可なことではない」と急に説教しはじめるセリフはドラマオリジナルであるため、原作以上に「犬」という存在を通したキャラクターの性格付けが強くなされていることが分かる。

現代の「処罰感情」とネット私刑社会へのカウンター

 さて、人間洞察に長けた原作のクオリティと、その良さを引き継ぎながらドラマ性にフォーカスした実写、確固たる演技力を持つ俳優陣と、ヒットの理由が揃っている『九条の大罪』ではあるが、本作で九条が弁護を引き受ける半グレなどは、現代社会が最も忌み嫌い、処罰感情を募らせる存在だ。それがここまで支持されたのはなぜなのだろうか。

 有名人のゴシップから校内暴力、企業の内部告発をスクープして世間に訴えるのは、以前は週刊誌の役割だった。その後、スマホとSNSが普及し誰もが告発可能な時代になったことで、2017年前後の#MeToo運動のように、省みられることがなかった人々の痛みを社会に訴えられるようになったことは良い流れだった。

 だが結果的に、暴露系YouTuberらが不適切な言動や行動の当事者、あるいは事件の加害者とされる人物を「晒す」という行為でSNS上に投稿し、さらにSNSの膨大な匿名アカウントが一斉に拡散・非難する世の中を作り上げたことも否めない。

 法的手続きを経ない制裁、いわゆるネット私刑の根幹の一端には、九条を「悪徳弁護士」と蔑むような大衆の道徳感情があるが、そうした正義感や社会通念は容易に揺らぐものだ。社会的に悪人とされる者たちを弁護する九条の存在は、匿名で誰かを罰し制裁するネット私刑社会の危うさを浮き彫りにしている。

 そして多くの人々が、こうした処罰感情の横行に疲弊しているからこそ、本作の持つアンチテーゼに惹きつけられたのではないだろうか。

■配信情報
Netflixシリーズ『九条の大罪』
Netflixにて世界独占配信中
出演:柳楽優弥、松村北斗、池田エライザ、町田啓太、音尾琢真、後藤剛範、吉村界人、水沢林太郎、田中俊介、黒崎煌代、石川瑠華、原田泰雅(ビスケットブラザーズ)、吉田日向、 川﨑皇輝、佐久本宝、和田光沙、水澤紳吾、福井晶一、氏家恵、六角慎司、諏訪珠理、奥野壮、うらじぬの、前原瑞樹、遊井亮子、長尾卓磨、田辺桃子、森田想、杢代和人、岩松了、渡辺真起子、菊池亜希子、長谷川忍(シソンヌ)、香椎由宇、光石研、仙道敦子、生田斗真、ムロツヨシ
原作:真鍋昌平『九条の大罪』(小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』連載中)
監督:土井裕泰(TBSテレビ)、山本剛義(TBSスパークル)、足立博
脚本:根本ノンジ
音楽:O.N.O
主題歌:羊文学「Dogs」(F.C.L.S. / Sony Music Labels)
プロデューサー:那須田淳(TBSテレビ)
エグゼクティブプロデューサー:髙橋信一(Netflix)、杉山香織(TBSテレビ)
制作協力:TBSスパークル
製作著作:TBSテレビ
配信:Netflix

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