『風、薫る』が“王道”をハイスピードで駆け抜ける理由 “明治のリアル”はドラマ史に残るか
2015年に放送され絶大な人気を得た『あさが来た』は『キャンディ・キャンディ』を意識して作られていた。それが主演の波瑠がインタビューで参考に『キャンディ・キャンディ』のDVDを観たと語っていたことだ(筆者が取材で参加した『白岡あさ・新次郎語録』)より)。あれから11年、今回もその成功体験に縛られているような印象がいまのところある。
直美はキャンディと同じみなしご、りんの周囲には虎太郎、卯三郎、シマケンという協力的な人物が複数いる(キャンディも複数の男性キャラに入れ代わり立ち代わり助けてもらっていた)。そして、キャンディはゆくゆく看護の勉強をして従軍看護婦になる。その進路も共通である。
ただ『キャンディ・キャンディ』は創作の参考になり得る名作といっても1970年代の作品であまりに古い。この記事を読んでいる人でも知らない人もいるかもしれない。この昭和の名作を最も平成に受け継いだ作品といえばーー1990年代に生まれ2000年代まで連載して、実写化もされた『花より男子』がある。貧しい家に生まれた主人公が富裕層の男性4人に囲まれ、雑草魂で生き抜き、やがて恋が生まれる恋愛ものだ。
『キャンディ・キャンディ』のラストは初恋の人・丘の上の王子様と出会い、『花より男子』も実写ドラマ化されて映画のファイナルでは恋愛面におけるハッピーエンドでまとまっている。苦労だらけの主人公が素敵な男性に助けてもらって恋の力が生きる力になっているというドリーム。それが長らく王道だったが、ジェンダー平等の令和では変動が起きている。そこを『風、薫る』ではどう扱うか問われるからこそ、捨松のように結婚を「上がり」にしないでしたたかに社会(ドラマではソサイエティ)問題を解決するために生きる人物が魅力的に見える。
男性キャラとの関わりだけではない。りんと直美が出会う東京の風景にも、長らく疑いなく王道とされてきたものがある。西洋化された風景だ。明治になって鹿鳴館では女性はドレスで着飾っている。りんが働く瑞穂屋は『不思議の国のアリス』を意識した西洋的な異空間。西洋の衣裳や調度品や雑貨の数々はなんとなくおしゃれな印象がする。美青年たちに囲まれる昭和の少女漫画ふうなパッケージと並び、西洋化された世界観も観る者の憧れをくすぐる魔法のひとつ。西洋化が必ずしもよかったわけではなく歴史的に様々な問題が横たわっているという現実もあって、そういう側面から見ると美青年も西洋化した風景も虚像でしかない(そのへんを前作『ばけばけ』が古き日本を愛する作家の視点で書いている)。だからこそ、これまでの王道部分を主にせず、そこはさくさくと風のように通り過ぎていこうとしているとすれば、朝ドラ史、あるいはドラマ史において『風、薫る』はなかなか興味深い位置にいるといえるだろう。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK