『九条の大罪』がドラマ化された意義 柳楽優弥、松村北斗らが体現する“リアリティ”

 ここで注目したいのは、こうした曽我部や笠置、あるいは子どもを抱える生活苦から犯罪をおこなっていた衣笠(森田想)といった社会的弱者が、闇社会の完全な被害者とは言えない点である。同情すべき点はありながら、これらの人物は能動的に犯罪をおかすことを選び取ってしまっている。食い物にされるだけの善人に収まっていないところが、本シリーズが描く“リアリティ”だといえる。

 実社会における現実の弁護士が担当するのも、そうしたケースが多いのではないか。ここでは、同情の余地のある人物たちが、決して清廉ではない部分があることを描くことで、登場人物たちを“生きた存在”として表現しているのだと考えられる。そうした人々に九条がときに“人間として”対峙する瞬間こそが、本シリーズが輝く瞬間なのだ。俳優・柳楽優弥の強い眼光は、まさにこの一瞬にこそ活かされている。

 とはいえ、同じ原作者による『闇金ウシジマくん』に代表される、弱者の姿を悪趣味といえるほど陰惨に描いてショーアップするという、視聴者の覗き見のような興味を喚起する点が物語の“引力”として、今回も機能しているという点は変わらない。本シリーズにおける“人情”描写は、そうした露悪趣味のバランサーとしても機能し、娯楽作品として成立させる役割を担っていることも確かなのだろう。

 しかし、である。本シリーズがそうしたバランスで成り立っているとしても、実際に原作者が物語を構築したり、脚本家が翻案や調整をしたり、出演者たちが熱のこもった演技をしたり、監督たちが演出をするなかで、バランサーとしての人情描写には、それ以上の意味や熱量が加わっていくことになる。

 そうした要因から立ち上がってくるのが、法の公平性を超えた根源的な“人間の矛盾”だ。本作が生み出す、そうした“不協和音”は、ものごとや社会をありのままに映し出そうとする「自然主義」を宿した「近代文学」にも含まれる感覚である。娯楽表現のなかに投じられた割り切れない現実や、そこに密接にかかわってくるメロドラマ的要素……。

 おそらくは、このドラマシリーズの制作にかかわった誰もが制御しきれていない、ぐちゃぐちゃに絡まった、そうした名状し難い有機的なものこそが、結果的に作品自体の最も大きな魅力となったといえるのではないだろうか。こうした有機的な揺らぎが、原作にさらに加えられたという点で、本シリーズ『九条の大罪』は、ドラマ化される意義が深まったといえるだろう。

■配信情報
Netflixシリーズ『九条の大罪』
Netflixにて世界独占配信中
出演:柳楽優弥、松村北斗、池田エライザ、町田啓太、音尾琢真、後藤剛範、吉村界人、水沢林太郎、田中俊介、黒崎煌代、石川瑠華、原田泰雅(ビスケットブラザーズ)、吉田日向、 川﨑皇輝、佐久本宝、和田光沙、水澤紳吾、福井晶一、氏家恵、六角慎司、諏訪珠理、奥野壮、うらじぬの、前原瑞樹、遊井亮子、長尾卓磨、田辺桃子、森田想、杢代和人、岩松了、渡辺真起子、菊池亜希子、長谷川忍(シソンヌ)、香椎由宇、光石研、仙道敦子、生田斗真、ムロツヨシ
原作:真鍋昌平『九条の大罪』(小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』連載中)
監督:土井裕泰(TBSテレビ)、山本剛義(TBSスパークル)、足立博
脚本:根本ノンジ
音楽:O.N.O
主題歌:羊文学「Dogs」(F.C.L.S. / Sony Music Labels)
プロデューサー:那須田淳(TBSテレビ)
エグゼクティブプロデューサー:髙橋信一(Netflix)、杉山香織(TBSテレビ)
制作協力:TBSスパークル
製作著作:TBSテレビ
配信:Netflix

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