『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はなぜ時代を代表する一作に? “2人の監督”の到達点
ライアン・ゴズリングだからこその“人間くささ”と内なる知性
その主演俳優に、ライアン・ゴズリングを抜擢したのも至極納得がいく。おそらくハリウッドでも最高レベルの巧みさで「知性をシャツの内側にしまい」、なおかつ「観客の心配と愛着を勝ち取れる」存在だからだ。たとえば『バービー』(2023年)のバカっぷり、損しかしない役回りを一身に背負う勇敢さを見よ! それでも彼の内なる知性は誰も疑わない、という稀有な存在である。また、ゴズリングはアニメーション的パントマイム表現に長けた芸達者でもあり(ディズニー・チャンネル仕込みのキャリアの賜物?)、その点でもハマり役だ。
(ところで中原昌也さんはゴズリングについて、ユーリ・ノルシュテイン監督の傑作短編アニメ『霧につつまれたハリネズミ』(1975年)のハリネズミ君に似ていると言っていた。たしかにあのキャラクターは最低限の作画表現ですべてのエモーションを豊かに伝えてくれるし、あと顔も似ている。けだし名言)
ゴズリングは『PHM』で、全編出ずっぱりのうえに大部分を一人芝居で支え、CGで描かれた岩石異星人ロッキーと渡り合いながら、生身の俳優としての矜持を見せつける。『2001年宇宙の旅』(1968年)のキア・デュリアよりも人間くさく、『オデッセイ』のマット・デイモンよりもみっともなく、作画では容易に再現できないであろうデリケートかつ感動的な芝居を見せてくれる(あるいは、ライアン・ゴズリングがアニメーターに転職したら、歴史に残る名場面を描いてくれるのではないか)。そんなゴズリングが『PHM』で披露する最高の名場面は、主人公グレースが異星人の友人ロッキーの前で、強がりの向こうに本音をさらけ出し、「ありがとう」の一言を絞り出すシーン。本編随一の涙腺決壊モメントである。
実写だからこそできた表現と、限りなくアニメーションの特質に肉薄した表現が横溢する『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、忘れがたい一作となった。監督コンビを筆頭に、そのミッションを実現できる選りすぐりの面々が見事に揃ったプロジェクトだったともいえる。
残念ながら現実の地球上では、「各国の知性が一致団結してこの星の危機を救う」という本作の展開が、まったくの絵空事のように思えてしまう皮肉な状況に陥っている。それでも個人レベルでの希望と逆転劇はありうる、という楽天的未来観を、観客は本作から感じ取れるのではないだろうか。今こそ人類に必要な前向きさと勇敢さ(孤独を恐れない心を含む)に溢れた、時代を代表するSFドラマとして観ておきたい一作である。
■公開情報
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
全国公開中
出演:ライアン・ゴズリング、ザンドラ・ヒュラー
監督:フィル・ロード&クリストファー・ミラー
日本語吹替:内田夕夜、三石琴乃、沢城みゆき、佐倉綾音、三宅健太、山路和弘、園崎未恵、井上悟、田中美央、高島雅羅、林真里花、横堀悦夫、間宮康弘、新井笙子、神戸光歩、柚木尚子、雪村マイ、金城慶、渡辺アキラ、木内太郎、花江夏樹
脚色:ドリュー・ゴダード
原作:アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(早川書房刊)
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:https://ProjectHM.movie
公式X(旧Twitter):https://x.com/ProjectHM_movie