『ばけばけ』スピンオフが映し出した“もうひとつの人生” サワとウメが補完したトキの物語

 朝ドラ『ばけばけ』(NHK総合)の放送が終了して、あっという間に1週間が経った。朝のお茶の間にトキ(髙石あかり)たちがいないというのは、どうにも寂しいものだ。しかし、そんな私たちと『ばけばけ』の世界の住人らとが、早くも少し違うかたちで再会をすることとなった。そう、3月30日から4夜連続で、本作のスピンオフドラマが放送されたのだ。主人公は、トキの親友のサワ(円井わん)と、花田旅館の女中であるウメ(野内まる)。ここでは彼女たちの物語を振り返ってみたい。

 このスピンオフは全4話。それぞれ2話ずつ、サワとウメの物語が展開した。前半の「オサワ、スイーッチョン。」で描かれたのは、トキたちが松江から熊本へと移住したあとの、サワと庄田多吉(濱正悟)の物語だ。かつてふたりは親しい間柄になったが、結ばれることはなかった。サワの流した涙が強く印象に残っている。けれどもトキたちが熊本から帰郷すると、そこには夫婦となったふたりの姿があった。これは彼女らが夫婦として歩みはじめる、その入口の物語なのである。

 サワは念願の正規の教員となるものの、子どもたちとのうまい接し方が掴めない。その声も表情もどこかぎこちなく、厳しい印象。我々が幼い頃に抱いていた教師に対する恐れの裏側には、もしかするとサワのような“迷い”があったのかもしれない。そんなことを考えてしまうほど、円井が立ち上げる教師像はリアルだ。その迷えるサワに手を差し伸べるのが、庄田の存在。かつては恋仲に発展しかけたことのあるふたりとあって、観ているこちらまで少し気まずくなってくる。

 サワは自分というものを強く持っている女性だ。そこに庄田が差し出すアドバイスは、微妙にズレている。悪気はないのだが、少しだけ上から目線だとも映る彼の言動に、サワが気をよくするわけがない。プンスカしながら「腹立つ」というセリフを連呼するシーンは、アニメ『耳をすませば』(1995年)の名シーンを彷彿とさせるものだった(ということはつまり、ふたりの関係が好転する予感に満ちていたものだったともいえるだろう)。その後は錦織友一(吉沢亮)が一肌脱ぎ、ドタバタとした展開の中で、ふたりの距離がまたぐっと縮まる――。

 この流れの中に、熊本にいるトキたちは登場しない。『ばけばけ』の物語の主軸はもちろん、トキの人生だ。私たちが目の当たりにする彼女の人生の周囲には、こうしていくつものチャーミングで愉快な人生があった。そのことに改めて気づかせてくれるのが、このスピンオフドラマである。

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