『風、薫る』見上愛が表現する“2つの顔” 第3話時点での重苦しい空気は異例?

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』は、初回から「コロリ」と呼ばれる感染症・コレラの流行により、不穏な空気感となっていたが、第3話ではその恐怖がどんどん色濃くなっていく。

 「隣町にコレラが出た」という噂がまさに風のように村を駆け巡ってから、それほど日が立たないうちにりん(見上愛)の村でも感染者が。しかもその人は、虎太郎(小林虎之介)の母・栄(岩瀬顕子)だった。

 コレラはコレラ菌で汚染された水や食品を口にすることによって感染するもので、新鮮な野菜を汚染された水で洗っただけでも感染のもととなる可能性があるので急速に広まりやすい。栄は病院へ隔離されたが、患者には激しい下痢や嘔吐などの症状が出るので、それらに触れてしまわないためにも正しい処置と言える。コレラは明治以前にも何度か世界的に流行していて、症状などはよく知られていたが、歴史的にみるとその原因菌であるコレラ菌をドイツの細菌学者ロベルト・コッホが発見したのが、1883年(明治16年)。第2話でりんたちの村で夏祭りが明治10年に開催されていたので、当時のコレラは、まさに治療法も確立されていない“流行病”で人々は自分や家族、地域を守るためにさまざまな治療法を試していた段階。隔離や消毒など実際に効果的なものもあるが、お札が配られるなど“まじない”的な側面が見られるのもそのせいだろう。

 将来、西洋式の専門的な知識と技術を訓練されたトレインドナースとなる前から、こうして病気が流行していく様子を目の当たりにしていくりん。その中で、りんがナースとして必要不可欠な“人に寄り添う心”を持っていることがうかがえる。しかし、まだその心を適切な行動で表すことができない。

 りんは栄を心配し、衝動的に避病院へ向かうが、町はコレラ患者が増えたせいか閑散としていた。そしてうつるといけないからと周りの住人に追い返されてしまう。さらに、感染者の家族として疎外されてしまった虎太郎を見つけて声をかけるが、「大丈夫」としか声をかけられないし、虎太郎は目も合わせてくれない。りんは励ますために虎太郎の手を握ろうとしたが、手を伸ばしただけでためらってしまった。それは気になる人の手を握ることへの恥ずかしさからなのか、はたまたコレラが移る心配をしたからか。虎太郎は後者だと思ったようで、2人はギクシャクしてしまう。

 また、りんは父・信右衛門(北村一輝)が明治維新前に武士を辞めてしまった理由を気にかけていた。これもまた、父の心に寄り添いたいという思いからだろう。人の心の内を知るには、その人からその思いを直接聞くか、事情を知っている人から情報を引き出すことが必要である。りんはそれが自然とわかっているようで、かつて父に仕えていた中村(小林隆)に「父はなぜ武士を辞めたのですか」と直接声をかけたこともあった。

 信右衛門は、りんのこういう嘘がつけなくて、なんでも口に出してしまうのは良くないところだと指摘し、「いつか痛い目を見る」と忠告。だが、これをいい機会とりんはどんどん疑問をぶつけ、自分の判断に迷いつつも“生きること”を大切にしている父の心に触れたのだった。

 こうして言いにくいこともズバリと聞いてしまう潔さと人を思う優しさがあるりんの“2つの顔”を見上はバランスよく表現している。だからこそその姿は、りんが口数は多くないが、人としてどうあるべきかを考える父・信右衛門と、人としての気高さを重んじる母・美津(水野美紀)の娘であることを感じさせ、家族のつながりの深さを印象付ける。

 そんなある日、庭先で信右衛門が吐き気を催す。りんの家にまでコレラがやってきてしまったのだろうか。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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