Huluオリジナル『時計館の殺人』の見事な実写化 『十角館の殺人』に続いて乗り越えた困難

 『館』シリーズは小説としての完成度が高すぎるため、実写映像化が難しかった。中でも『十角館の殺人』は小説でしかできない表現があるため映像化不可能と言われていたが、監督・プロデューサーの内片輝を筆頭とするドラマスタッフはその困難に挑み、映像作品として見事に完成させた。

 そして今回の『時計館の殺人』も、映像で扱うには難しい作品で、綾辻自身も「『時計館』の映像化を成立させるためには、『十館館』のアレとはまた違うレベルで、立ち向かわなければならない難題がいくつもあります」とコメントしている。

 綾辻の言う「立ち向かわなければならない難題」と聞いて、小説読者なら作中の様々なシーンが頭に浮かんだのではないかと思うが、おそらく一番初めに乗り越えなければならなかった最大の難題は、時計館を説得力のある舞台として作り上げることだったのではないかと思う。

 『時計館の殺人』は様々な読み方ができる物語で、館に閉じ込められた江南たち取材チームのメンバーが“ある理由”から命を狙われる中、なんとか殺人犯の手を逃れて脱出しようとする姿にはゴシックホラーとしての面白さがあり、江南たちが連続殺人の謎を解き、館の外にいる鹿谷が時計館の謎と事件の真相について推理していく様子には、ミステリーとしての面白さがある。そして、館に出没すると噂される少女の亡霊の物語の裏には、時計館の先代当主とその家族と関係者にまつわる数奇な運命の物語があり、ヒューマンドラマとしても見応えがあるのだが、何より圧倒的な存在感を放つ“裏主人公”と言える存在が、時計館という建物である。

 館内には様々な種類の時計のイミテーションが108個も飾られており、その全てが同じタイミングで時を刻む音を鳴らしている。その様子は不気味だがどこか神聖で、一つ一つの時計がまるで意識を持っているかのようにも見え、怪物の腹の中に閉じ込められているような恐ろしさがある。

 これは『館』シリーズ全てに言えることだが、小説という文字の表現だからこそ、読者それぞれがイメージする理想の館がすでに出来上がっている。中でも時計館が醸し出す不気味でありながらどこか神聖な空間にも思える館内のイメージは強烈で、これを映像作品のビジュアルとして具体的に提示することがいかに困難かは、読者の方なら誰もが思うところだろう。だが、本作はその難題に真正面から挑み、時計館に実在感を与えることに成功している。

 そのため、第1部は時計館に閉じ込められた人々の恐怖を描いたゴシックホラーとして抜群に面白い。ミステリードラマとしての本領が発揮されるのは第2部となる第7話~第8話の完結編だが、まずは時計館内部の不気味なディテールを堪能してほしい。

■配信情報
Huluオリジナル『時計館の殺人』(全8話)
独占配信中
出演:奥智哉、青木崇高、鈴木福、神野三鈴、六平直政、角野卓造、嶋田久作、矢島健一、山中崇、今野浩喜、向里祐香、岡部ひろき、吉田伶香、渡辺優哉、阿部凜、藤本洸大、伊武雅刀、池田鉄洋、仲村トオル
原作:綾辻行人『時計館の殺人(上)(下)』(講談社文庫)
監督:内片輝、山本大輔
脚本:戸田山雅司、早野円、藤井香織、内片輝
音楽:富貴晴美
オープニング曲:「よもすがら」ずっと真夜中でいいのに。(EMI Records / UNIVERSAL MUSIC)
企画・制作:内片輝事務所、いまじん
製作著作:HJホールディングス、日本テレビ
©綾辻行人/講談社 ©HJホールディングス・NTV
公式サイト:https://www.hulu.jp/static/tokeikannosatsujin
公式X(旧Twitter):@tokeikan_hulu

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