『ばけばけ』全話が愛おしく思い出したくなる最終回 髙石あかりの名演をずっと忘れない
トキが語った言葉は、『思ひ出の記』という1冊の本になった。タイトルバックで映し出される場面写真が、トキとヘブン、錦織や松野家、雨清水家との何気ない日常を振り返る、意味のある演出と構成になっている。
筆者は最終回が放送される前日に、トキのモデルとなっている小泉セツの著書『思ひ出の記』を読んだのだが、この半年の放送がぶわっと脳内に再生される感覚に襲われた。
「テテポッポ、カカポッポと山鳩が鳴くと松江では申します」「又書斎は、西向きに机を置きたい。外に望みはない」「ただあなたの話、あなたの言葉、あなたの考でなければ、いけません」などのほかに、「ワイシャツや、シルクハット、燕尾服、フロックコートは『なんぼ野蛮の物』と申しました」といった最終回のエピソードも出てくる(『思ひ出の記』より)。
八雲が好んだという盆踊りをはじめ、劇中では描かれていない思い出がほとんどではあるが、目を瞑ればトキとヘブンの姿が脳内再生される。そのことが、この半年が愛おしく、すばらしい毎日だったと思わせてくれる。
『ばけばけ』は第1話冒頭、「それではもう一つの話、よろしいですか。それは明治の初め。武士の世が終わったばかりの、それはそれはうらめしい時代のことであります。では、私トキの話を」という語りから、タイトルバック、そして本編へと流れ、始まっていった。そして最終回、タイトルバックが終わり、「これが、私、トキの話でございます」と語り出す。
つまりは、この『ばけばけ』全体が「『思ひ出の記』をトキがヘブンに語る」という円環構造になっていたのだ。今一度第1話を確認すると、本棚には『思ひ出の記』らしき背表紙は見当たらないが、最終回ラストには『思ひ出の記』が本棚に並び、そこにはヘブンもいる。ここからは視聴者の想像に委ねられている気もするが、『ばけばけ』的に言えば、死後の世界という解釈がぴったりだろう。
和ろうそくを前に、見つめ合うトキとヘブン。トキは「お散歩、行きましょうか」とヘブンを誘った。
特番『ハンバート ハンバートと「笑ったり転んだり」を語ったり♪』(NHK総合)の中で、演出の村橋直樹は「『思ひ出の記』をいちばん大事にしてこの企画を進めていこうと考えていた」と語っていた。また、主題歌「笑ったり転んだり」が、2025年ラストの放送となったトキとヘブンが結ばれる第65話だけでなく、「最終回にもかなり影響を与えています」とも明かしていた。『思ひ出の記』を元に作詞された「笑ったり転んだり」は、単なる主題歌の枠を超えて、『ばけばけ』になくてはならない要素だったと思える。
『ばけばけ』が終わっても私たちの日常は続いていく。自分に、世界に落ち込み、うらめしく思う日も来るだろう。そんな時は散歩をして、この半年を思い出す。そうすることで、きっと世界は反転してすばらしいものへと変わっていくはずだ。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK