『ルックバック』実写化の難度と可能性 劇場アニメ地上波初放送を機に整理したいポイント
作品の核となる“背中”のモチーフ
そして3つ目は、この作品に繰り返し現れる“背中”のモチーフである。タイトルが示すのは「振り返る」ことだが、作品が何度も見つめているのは、正面の顔よりも、描き続ける背中、走り去る背中、追いかける背中だ。机に向かう藤野の背中、部屋にこもって描く京本の背中。その後ろ姿にこそ、2人の感情や関係性の変化が静かににじんでいく。アニメ版は、線と動きによって、その背中に宿る感情を繊細にすくい取っていた。
実写版で問われるのは、俳優たちが後ろ姿だけでどこまで感情を残せるか、ということでもあるだろう。是枝裕和が監督・脚本・編集を兼ね、全編フィルム撮影で臨むという今回の布陣は、言葉にしすぎない感情の手触りと相性がよさそうにも見える。セリフや説明に頼りすぎず、身体の向きや距離感、空気の揺れまで含めて映し出せるかどうかは、大きな見どころのひとつになりそうだ。
悲劇的事件をどう描くか
そして最後となる4つ目は、作中後半の大きな転機となる悲劇的な事件をどう扱うのかという点である。とりわけ実写では、アニメ以上に現実の質感が強く立ち上がるぶん、事件の描写も生々しくなりやすい。どこまでを見せ、どこから先を見せすぎないのか。そのさじ加減ひとつで、作品全体の印象も大きく変わってくるだろう。この場面をどう演出するかは、再現度にとどまらず、『ルックバック』という物語が抱える痛みを、実写がどう受け止めるのかという問いにもつながっている。
ここまで見てきたように、『ルックバック』の実写化には、期待を抱かせる要素がある一方で、乗り越えるべき難しさもある。だからこそ、原作、そしてアニメ版に心を動かされた読者・観客ほど、今回の実写化に複雑な気持ちを抱いたのではないだろうか。藤本タツキ作品として初の実写映画化という話題性はもちろん大きい。
一方で、『チェンソーマン』や『藤本タツキ短編集 17-26』に見られるような、発想の飛躍やファンタジックな表現を核にした作品群と比べると、『ルックバック』は学校や部屋、机に向かう時間といった現実の手触りが物語の土台になっている。そうした意味では、藤本作品のなかでも実写化のアプローチを想像しやすい一作と言えるかもしれない。難しさの多い作品であることは間違いないが、だからこそ実写が何を選び取り、どのように2人のあの背中を差し出すのかを見届けたい。
■放送情報
『ルックバック』
NHK総合にて、3月22日(日)23:00〜放送
出演:河合優実、吉田美月喜
原作:藤本タツキ『ルックバック』(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・キャラクターデザイン:押山清高
音楽:haruka nakamura
アニメーション制作:スタジオドリアン
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©藤本タツキ/集英社 ©2024「ルックバック」製作委員会
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