夏帆「常に“今”が大事な1ページ」 『ある小説家の日記』で向き合ったAIと創作の在り方

 夏帆が主演を務める特集ドラマ『ある小説家の日記』(NHK総合)が、3月8日23時より放送される。急逝した大ヒットミステリー作家・芹澤環(板尾創路)が残した“日記”をめぐり、妻の真理子(シルビア・グラブ)と女性編集者の江藤恵が「日記の構築」という禁断の領域に踏み込むサスペンスフルな物語だ。

 夏帆が演じたのは、後がなく崖っぷちの中堅編集者・江藤恵。亡き作家が対話していた「生成AI」という現代的テーマが深く絡む繊細な脚本に挑んだ苦労や、共演者とのエピソード、そして急速に身近になったAI技術への思いについて、クランクアップ直後の取材でたっぷりと語ってくれた。

崖っぷち編集者の焦りと危うさへの共感

ーーオリジナル脚本から生まれた作品とのことですが、まず台本を読んだときの印象と、惹かれたポイントを教えてください。

夏帆:いろいろなテーマが、この短いドラマの中にぎゅっと詰まっているなと感じました。一つは「創作すること」の魅力や、その難しさについて。そして、その上で巻き起こる人間関係です。そこにAIという存在が入ってくるのですが、私自身もちょうど「AIとどう付き合い、向き合っていくのか」を考える機会があったので、すごくタイムリーな作品だなと思いました。

ーー今日クランクアップされたとのことですが、今回の撮影で一番難しかったこと、この作品ならではの苦労があれば教えてください。

夏帆:ちょっとした動きや表情、セリフのニュアンス一つで、見え方や伝わり方が大きく変わる非常に繊細な脚本だったの、セリフに書かれていない部分をどう読み取っていくのかがとても大事だなと思いました。平監督が初演出だったということもあり、シーンをどういう方向性でみせていくのか、部署の垣根を越えて。みんなで話し合いながら作っていたのが印象に残っています。

ーーあらすじを読んでいても展開がイメージしづらい、不思議な魅力を持った作品だと感じていました。完成した映像への期待はいかがですか?

夏帆:サスペンスのような雰囲気もありつつ、私が演じる江藤には「結果を出さないと編集者でいられない」という仕事への焦りがあり、一方で芹澤さんの妻・真理子さんは大切な人を失った悲しみを抱えていて、そこにAIが絡んでくる。私自身も、これがどんな作品になっているのか、お芝居をすべて撮り終えた今も想像がつきません。でもそれはすごく良い意味で、この後編集作業があり、音楽が入ることで、作品がさらに変わっていく気がしています。「脚本を読んでパッと明確なイメージが浮かぶわけではない」というのが、この作品の大きな魅力です。今まで観たことがないような、不思議な作品になるんじゃないかと思っています。

ーー今回は編集者という役どころですが、役作りで工夫した点や、ご自身の読書習慣について教えてください。

夏帆:過去に役作りのために編集の方にお話を伺った経験や、編集の仕事をしている友人が何人かいるので、彼女たちの姿を思い出したりして参考にしました。私自身、作品に入っていない時期はよく本を読んでいます。ノンフィクションも読みますし、純文学も読みますし、その時の気分によって様々ですね。ただ、ミステリーはあまり読まないかもしれません。先が気になりすぎて、ずっと読み続けてしまうので(笑)。でも機会があればぜひ読みたいと思っています。

ーー江藤が「日記を世に出したい」という欲望から、踏み越えてはいけない一線を越えてしまう葛藤には、共感できる部分はありましたか?

夏帆:そうですね、すごくわかるなと思います。新しいものに触れたときの興奮もあったと思いますし、後がない状況下で、ついつい勢いで踏み込んでしまった部分もある。後から自分のやってしまったことに気づくという危うさは、誰にでも陥る可能性があるのではないでしょうか。もちろん、編集者としては本当に許されない、絶対に踏み越えてはいけない一線だとは思います。でも、それだけ彼女の中に創作に対する強い憧れや熱意があったのだと思いますし、自分自身も同じ状況下に置かれたら、もしかしたらそういう行動を取ってしまうかもしれないなと思わせる説得力がありました。

ーー芹澤先生役の板尾創路さん、妻・真理子役のシルビア・グラブさんとの共演はいかがでしたか?

夏帆:板尾さんとはワンシーンだけの短い共演でしたが、板尾さんにしか出せない掴みどころのない、でも引き寄せられてしまう魅力があり、「まさに芹澤先生ってこういう感じなんだろうな」と思いました。やり取りにもどこか緊張感があり、ずっと見透かされているような気がして、ドキドキしながらお芝居をさせていただいたのが印象的でした。 シルビアさんはとてもチャーミングな方なのですが、その魅力が後半の真理子さんに滲み出るようなシーンもありました。これだけ人間味のある人物を演じられるのはシルビアさんしかいなかったと思いますし、いつでも全力で向き合ってくださり、とても刺激的でした。

ーー真理子と江藤は、愛する人を失った喪失感と、編集者としての欲望という異なる思いを抱えながら、ある種の共犯関係になっていくと思います。この二人の関係性をどう捉えていますか?

夏帆:言葉を扱う物語でありながら、描こうとしているのは言葉にできない曖昧なものだったりするんです。真理子さんは孤独や寂しさを抱えていて、自分の内面を誰かと共有したいけれど、簡単に感情を相手にぶつけられる人ではない。二人の関係性は一言では説明しきれず、いろいろな側面が当てはまるような、とても複雑な関係なのだと思います。

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