『閃光のハサウェイ キルケーの魔女』に通じる現代の国際情勢 凝縮された富野イズムを考察

『閃光のハサウェイ』に通じる現代の国際情勢

 『閃光のハサウェイ』は背景美術を徹底して作り込んでいる作品。たとえば1作目では、フィリピンのダバオに広がる高層ビル群や超豪華ホテルが実写のような存在感で描かれていた。そしてそんな街並みのすぐそばで、不法滞在者たちが貧困生活を送る様子を描くことで、強烈な格差社会を浮かび上がらせている。

 『キルケーの魔女』でもニュー・ホンコンの豪邸など、迫力のある背景美術が見られるが、さらに重要なのはギギにまつわる描写だ。彼女の生活はきわめて優雅で、その肉体は美しく飾り立てられている。しかしこれと対比するかのように、「マフティー」の面々は着飾らずに自然体でいることを好み、なかにはトップレスにこだわりのある女性も出てくる。

 この描写を読み解くカギとなるのが、オーストラリアのアリススプリングスでのケネスの発言。彼はギギに対して、周辺に広がる広大な土地を連邦政府のトップがほしいままにしているという情報を明かす。原作のギギはこれを聞いた際、伯爵の生き方について想いをめぐらせ、いずれも「ステイタス」を誇示する生き方だと悟る。そしてその上で、恵まれた生活を捨ててハサウェイのもとに行くという決意をより強くするのだった。

 ギギ自身としては、「マフティー」のやり方は否定しており、ハサウェイのもとに向かうのも政治とは関係なく、自分の想いに従った結果に過ぎないだろう。しかし『キルケーの魔女』では登場人物たちの生活がとことんリアルに描かれているため、その背後にある富の格差がはっきりと浮かび上がっているように見える。

 同作をすぐれたポリティカルフィクションとして評価できるのは、こうした生活の描写があってこそではないだろうか。

 もちろん同作において、ハサウェイの理想は単純に肯定されているわけではない。『キルケーの魔女』では自身のトラウマから目を逸らすため、大義や正義に奉仕しているという側面が強調されていた。またハサウェイが今まで無自覚に食べていた冷蔵庫の中身を用意してくれていたのが恋人のケリアだったことを知り、驚くシーンは、地に足が付いていない人物であることを示唆しているだろう。

 とはいえ、同作はハサウェイの思想を全否定しているわけでもない。富野が環境問題や組織の腐敗、戦争の悲惨といったテーマにこだわってきたことはいうまでもないが、同作にもそうした問題意識がはっきりと示されている。

 むしろハサウェイが体現しているのは、思想と肉体、政治と生活が乖離してしまった青年の苦悩だと思われる。そして誰もが共感できる悩みという意味では、この点にこそ同作の現代的な価値を見出せるのではないだろうか。

 『キルケーの魔女』に続く3作目では、ハサウェイの運命がどのように描き出されるのか。“富野イズム”を色濃く受け継いだ村瀬監督の手腕に注目したい。

■公開情報
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』
全国公開中
キャスト:小野賢章(ハサウェイ・ノア役)、上田麗奈(ギギ・アンダルシア役)、諏訪部順一(ケネス・スレッグ役)、斉藤壮馬(レーン・エイム役)
原作:富野由悠季、矢立肇
監督:村瀬修功
脚本:むとうやすゆき
キャラクターデザイン:pablo uchida、恩田尚之、工原しげき
キャラクターデザイン原案:美樹本晴彦
メカニカルデザイン:カトキハジメ、山根公利、中谷誠一、玄馬宣彦
メカニカルデザイン原案:森木靖泰、藤田一己
美術設定:岡田有章
美術監督:大久保錦一
色彩設計:すずきたかこ、久保木裕一
ディスプレイデザイン:佐山善則
CGディレクター:増尾隆幸
撮影監督:大山佳久
特技監督:上遠野学
編集:今井大介
音響演出:笠松広司
録音演出:木村絵理子
音楽:澤野弘之
企画・制作:サンライズ
製作:バンダイナムコフィルムワークス
配給:バンダイナムコフィルムワークス/松竹
©創通・サンライズ
公式サイト:https://gundam-official.com/
公式X(旧Twitter):https://x.com/gundam_hathaway

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