『ばけばけ』トキが怒りを飲み込んだ理由 ヘイトにさらされる松野家で守ろうとしたもの
『ばけばけ』(NHK総合)第87話では、松野家が世間の悪意にさらされた。
松江新報に載った記事が原因で、トキ(髙石あかり)は松江の人々から異人の妾、ラシャメンと誤解された。ヘブン(トミー・バストウ)と夫婦ではなく、家の借金を返すために売られたと思われたのだ。
人々の憎しみは家族にも及び、司之介(岡部たかし)は言い争いになって顔に傷を負い、家には「トキラシャメン」と書かれたうちわが投げ込まれる。しじみも売ってもらえない。トキは、石を投げられ額から流血してしまった。
錦織(吉沢亮)やタエ(北川景子)、三之丞(板垣李光人)はトキたちを心配する。トキが怪我をしたことを知ったヘブンは激高してやり返そうとするが、そんなヘブンをトキは必死に止めるのだった。
一度火が付いたヘイトは簡単に収まらない。そのことを現代の私たちは知っている。悪意のある見出しや仮想敵を作り出す言論が多くの人を苦しめている。普通の顔をした一般市民の中にある偏見があぶり出されるのを見るたびに、人の心のおぞましさを感じずにいられない。
松江の人たちのトキに向ける感情は、嫉妬と侮蔑の入り混じった複雑なものだ。理想の夫婦で時代の先端を走っていたトキは“松江のシンデレラ”であり、憧れの対象だった。それが実は、借金に苦しむ一家のために売られた妾だったなんて。
日々をつつましく生きている人ほど、記事を読んでがっかりしたに違いない。多くの人にとって、同じような境遇から幸せをつかんだトキは、頑張れば自分もなれるという幸せの象徴に見えていただろう。だから、トキがラシャメンだと思わせる記事を読んで、バカにされた、あるいは自分の気持ちを汚されたように感じたのではないだろうか。
理不尽な状況にトキが声を上げることは間違っていないし、トキを思うヘブンの怒りはもっともだ。それでも、トキがヘブンを押しとどめたのは、松江の人々の気持ちが理解できるからだろう。
「すぐみんなにわかってもらえる」と言い、「私は大丈夫ですけん」と気丈に振る舞うトキは、人々が自分にヘイトをぶつける理由をわかっている。貧しい中で毎日懸命に生きる人々、記事を読んで誤解してしまうのは仕方がないことだと観念しているように見える。
トキにとっての幸運はヘブンがいることだ。トキのために怒ってくれるヘブンは、決してトキをラシャメンとして扱うようなことはしない。一方で、トキもヘブンを守ろうとしている。日本で異人として暮らすヘブンが、日本人と決定的に対立してしまうことは避けたい。ヘブンに日本を嫌いになってほしくない、という思いがトキにあると考えるのは考えすぎだろうか。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK