『ばけばけ』が映す“三者三様の悩み” 生き延びるための「傷を舐め合って生きていこう」

『ばけばけ』祝福ムードの陰に三者三様の悩み

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第79話は、トキ(髙石あかり)の英語披露で街が明るく沸き立つ一方、なみ(さとうほなみ)は身請け話を前に踏み出せずにいた。

 街はヘブン(トミー・バストウ)とトキの話で持ちきりだ。そんな中、江藤(佐野史郎)は錦織(吉沢亮)に次期校長の話を持ちかける。ヘブンを松江に引き留めたこと、そしてトキとヘブンを夫婦へ導いたことを、江藤は「学校にとっての成果」として評価しているのだ。錦織は「光栄です」と受け止めつつも、校長という肩書に強い野心があるわけではない。だからその場で決めきれず、「少し考えます」と一度立ち止まる。ところがヘブンに相談すると、本人はその話を否定せず、むしろ肯定的に受け止める。自分の気持ちとは別に、評価が先に進んでいく。その流れに乗るべきなのか、それとも距離を取るべきなのか。錦織の迷いは深まるばかりだった。

 一方で、街を歩くサワ(円井わん)もまた、トキの話題に包囲される。そこで合流するのが、顔を隠して人目を避けるフミ(池脇千鶴)だ。サワは学校に通い、試験勉強に励んでいる。けれど周囲から見れば、まだ天国町と縁が切れたわけではない。そんなサワのもとへ、今度はなみの悩みが転がり込んでくる。

 遊郭には、なみに身請けの話が来ている。受ければ遊郭を出て、天国町からも離れられる。それでも、なみは一歩を踏み出せない。自由が怖いのだ。外へ出た先で、自分がどう扱われるのか。失敗したら戻る場所はあるのか。そうした不安が、好条件のはずの“救い”を、別の形の恐怖に変えてしまう。そしてなみはサワに「一緒に傷を舐め合って生きていこう」と告げる。甘えではなく、生き延びるための言葉だ。ここで第79話は、救われることが必ずしも幸せなこととして受け取れない現実を、まっすぐ描いていた。

 そんななみのもとを訪れるのが、身請けを申し出た福間(ヒロウエノ)である。「その後はどうか?」と確かめる福間に、なみは「若い子がたくさんいるのに、なぜ私なのか」と問い返す。返ってきたのは、「あんたは悲しい。ここにいる誰よりも」という言葉だった。突き放すようにも聞こえるのに、実際には逆で、福間はなみの痛みを見てしまっている。照れ隠しの言い方の奥にあるのは、同情ではなく惚れた気持ちだろう。だからこそ、なみは余計に怖くなる。“選ばれる”ことが、過去ごと抱えられることと同義になってしまうからだ。

 錦織には“次の役目”の話が舞い込み、なみには“新しい人生”の入口が差し出される。けれど、どちらも「条件が整ったから、はい次へ」と簡単に割り切れるものではない。なみにとって大事なのは身請けの条件ではなく、外へ出た自分を支えてくれる確かな支えだ。怖さが消えないのは、彼女が弱いからではない。ここで生き延びてきたからこそ、次の一歩が重い。そしてサワが白鳥倶楽部で向き合おうとしているのも、同じ置いていかれる怖さだ。街の中心にいるトキを見れば見るほど、羨ましさと悔しさが胸の奥で渦を巻く。祝福される側に立った友だちへの嫉妬がある一方で、自分も早くこの貧しい暮らしから抜け出したいという切実さもある。その2つが絡まって、サワはもう笑ってやり過ごせなくなっている。

 終盤では、白鳥倶楽部へ入っていくサワを見かけたトキが後を追う。門脇(吉田庸)と土江(重岡漠)は歓迎ムードを見せるが、サワはどこかそっけない。一度は部屋を出たサワが、もう一度戻ってきて二人と向き合い直す流れも含め、場の空気は穏やかではない。“笑ってやり過ごす”が通用しない局面に差しかかっていることを感じさせる引きだった。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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