『ばけばけ』ふじきみつ彦脚本の凄さが凝縮された“建前”の描き方 変わっていく人々の強さ

 そこにいる誰もがすべての事情を知っているのにも関わらず(ヘブンが知っていることを彼らは知らないが)、借金だらけの祖父・勘右衛門(小日向文世)と父・司之介が家長として大きな顔をして、「格が高い」雨清水家のタエ(北川景子)と三之丞(板垣李光人)を立て、「親戚」「会社の社長をしている三之丞」と、事実とは違うことを並べ立てることで話が前に進んでいく。それは「共同体の外から来た人・ヘブン」の視点で見るからこそより異様に映る、錦織(吉沢亮)の言うところの「本当の気持ちを隠すことで相手と良い関係を築こうとする日本の文化」である「建前」カルチャーの総決算とも言うべき光景だった。

 そしてそれは、本作がずっと描いてきた、健気に2つの家族を支えるトキによってなんとか均衡を保っている「明るくて愉快な家族」の根底にある歪な構造を露呈させるものでもある。さらに、なぜそうなってしまったかと言うと、当初は「士族としての誇り」や「家」へのこだわりがあったのだろうが、それらが目に見えて崩れ去った今となっては、それぞれの「相手を大切に思うゆえの嘘」が積もり積もった結果なのだということを明かしてもいた。

 本作は、ゆるやかに変わっていく人々の強さを描いた話でもある。勘右衛門がタツ(朝加真由美)に恋をするという、ただそれだけのことで、それまでずっと受け入れることができなかった「武士の世が突如終わった」ことと「いきなり春が訪れること」を並列に捉え、「これまでの我々の常識」を捨て、「人生というのは何が起こるか分からん」(第9週第43話)とすべてを受け入れた結果、彼は、彼にとっての「ペリー」ことヘブンを彼の家族の一員としてすんなり受け入れたのだから。

 同じことは、タエにも言える。勘右衛門と同じく、時代が変わっても、士族の娘としての誇りを変わらず持ち続けた結果、物乞いにまでなった彼女が、トキとヘブンによる「ママさん」呼びを快く受け入れ、自らその変化を面白がってみせること。「祝いの席には決してふさわしくない言葉“だらくそが”」で締めくくった泣き笑いの第70話には、ちょっとずつ変わっていく自分を、変わっていく世界そのものを受け入れる人々の強さがあった。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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