『ばけばけ』北川景子の“母”としての愛が滲む “建前”を受け止められないヘブンが切ない

 晴れて結婚が認められたはずなのに、当の本人たちはどこかぎこちない。NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第69話は、トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)の間に残る“言葉にされない感情”が軋みを生み、そこへ雨清水家の事情が重なって、祝福ムードに素直に浸れない空気を浮かび上がらせた回だった。

 結婚が決まって以降、ヘブンはトキに対して少し不機嫌そうに見える。嫉妬なのか、それとも自分に何も詳しい話をしてくれないことへの戸惑いなのか。トキが何かを抱え込んでいるのはわかるのに、その中身だけが見えない。その様子を気に掛けた錦織(吉沢亮)は、トキが三之丞(板垣李光人)の家にも金を手渡していたことを知り、ヘブンに説明しようとする。トキにとっては助けるのが当然という感覚でも、ヘブンにとっては簡単に飲み込める話ではない。なぜ結婚する相手に、肝心なことを言わずに動くのか。錦織は「建前だ」と言い切り、ヘブンとうまくやるために隠しているのだと諭すが、そこには文化の違い以上に、誰かを守るために、まず自分が背負ってしまうトキの性格そのものが横たわっているようにも見えた。

 一方、雨清水家ではタエ(北川景子)が三之丞に、トキの結婚を告げる。寝耳に水の報告に三之丞は驚きを隠せない。タエが「あなたは知っていましたか?」と探りを入れても、三之丞は何も知らないと答える。さらにタエは、最近自分が毎月20円稼いでいることにも話を向けるが、三之丞はここでも知らないふりを貫く。互いに踏み込みたいのに踏み込めない。雨清水家の中にも、言葉にしない緊張が積み上がっていた。

 そんな中、トキが花田旅館で結婚の祝いを受けているとタエが訪ねてくる。タエは逡巡の末、トキが雨清水家のためにお金を稼いでくれていたことを知っていたと、トキに打ち明けるのだ。トキは反射的に頭を下げるが、タエは「顔を上げて」と諭す。ここでタエが語ったのは、雨清水家が代々抱えてきた家の教えの重さだった。三之丞が誰かの下で働くことになってしまったこと。トキが女中として働くことになったこと。その背景に、雨清水家の価値観が影を落としていたのではないか。タエは、娘の選択を責めるのではなく、むしろ自分たちの側にある原因を言葉にしようとしていた。

 そしてタエは「お願がいがあります」と切り出す。自分がトキが金を工面してくれたことを知っていたことを、三之丞には伝えないでほしい。母としての体面、そして息子の誇りを守るための、ぎりぎりの頼みだった。

 そして第69話でもうひとつ強烈だったのが、結婚披露宴の場面だ。松野家と雨清水家、両家が揃い、順番に挨拶を重ねていく。だが、その場の空気から一人だけ取り残されているように見えたのがヘブンだった。

 挨拶が進み、三之丞の番になった瞬間、ヘブンは下を向いて黙り込む。言葉を飲み込む沈黙ではなく、拒絶に近い沈黙だ。やがて吐き捨てるように絞り出したのが、「カゾク、ナル、デキナイ」という一言。錦織は「建前」と言い、トキは守るために黙り、タエもまた真実を抱えたまま頭を下げる。祝福の場なのに、誰もがどこか“言わないこと”で均衡を保っている。その状況ごと、ヘブンは受け止めきれなかったのだと思わせる言葉だった。

 トキが守ろうとしてきたもの、タエが隠し通そうとしたもの、三之丞が知らないふりで支えてきたもの。その全部が家族という言葉に絡め取られていく中で、ヘブンの台詞は消えない違和感として残った。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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