荒井晴彦「一人で“ロマンポルノ”をやる」 トークショーで明かした映画を撮り続ける理由

 映画『星と月は天の穴』の公開記念トークイベントが12月26日にアップリンク吉祥寺にて開催され、脚本・監督の荒井晴彦、脚本家・映画監督の井上淳一、映画監督の原一男が登壇した。

 『星と月は天の穴』は、荒井が長年映画化を熱望していた吉行淳之介の同名小説を原作とした人間ドラマ。40代の小説家・矢添克二(綾野剛)が、過去の離婚経験から女性を愛することを恐れつつも、愛されたい願望をこじらせていく日常を、エロティシズムとペーソスを交えて描く。

 作品にも役者として出演している井上と原。井上は「前日の夜に荒井さんからLINEが来て、『お前、編集者か作家な。なんかセリフ考えといて』って言われて。『え、僕セリフあるんですか?』みたいな(笑)」と予想外の出演シーンだったことを明かす。一方、映画監督役で出演した原は、「もっと太々しい……もうちょっとエッチな映画監督を演じてほしかったのかな、と思った」と自身の芝居を見ての反省を述べた。

 原は荒井が手がける映画について、「性の世界をひたすら描いてる。でも、不思議となんて言うんだろう。“スケベ感”があんまりしないんだよね。 なぜかな、なぜかなあと思いながら」と荒井の世界観を称賛。

 吉行の原作が発表されたのは1966年。社会性や政治性を排した作品であるのに対し、映画版は学生運動や政治の季節である1969年に設定されている。会場の観客から、「原作にはない政治的な匂いをなぜ持ち込んだのか」「現代においてエロスがかつてのような反権力の象徴になり得るのか」と荒井に質問が。

 荒井は、時代設定を原作の1966年から1969年に変更した理由について、「69年は安田講堂(事件)があったし、アポロが月に着陸した年だから」と述べ、当時の象徴的な出来事を背景にしたかったと説明した。

 吉行が物語の普遍性を保つためにあえて時事ネタを避けたことに対し、荒井は「映画は作り手の借り物競争」とした上で、「78歳になった荒井晴彦の(69年の)思い出話としてやりたかった」と回答。

 また、映画独自の要素として、ヒロイン・紀子の恋人が学生運動を行っているという設定(劇中には登場しない)を加えたことを明かし、「それが(当時の)僕なんです」と告白。監督は「恋人に破れ、革命に破れっていうやつですね。それをやってみたかった」と述べ、本作に1969年当時の自身の体験や記憶を反映させたことを明かした。

(左から)原一男、荒井晴彦、井上淳一

 「現代においてエロスを描くことに政治的な意味はあるのか」という問いに対し、登壇者の井上は、現在の政治性とは権力闘争だけではなく、表現の自由に対する下からの規制(コンプライアンスなど)への抵抗にあるのではないかと補足した。

 これを受け、荒井監督は自身が映画を作り続けていること自体が一種の抵抗であると肯定し、「(他がやらないから)一人でロマンポルノをやる」という意識を持っていると述べた。これに対し井上監督が「一人ロマンポルノ」という言葉を繰り返し、トークショーは終了した。

■公開情報
『星と月は天の穴』
テアトル新宿ほかにて公開中
出演:綾野剛、咲耶、岬あかり、吉岡睦雄、MINAMO、原一男、柄本佑、宮下順子、田中麗奈
脚本・監督:荒井晴彦
原作:吉行淳之介『星と月は天の穴』(講談社文芸文庫)
撮影:川上皓市、新家子美穂
照明:川井稔
録音:深田晃
美術:原田恭明
装飾:寺尾淳
編集:洲﨑千恵子
音楽:下田逸郎
主題歌:松井文「いちどだけ」ほか
写真:野村佐紀子、松山仁
製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
レイティング:R18+
©2025「星と月は天の穴」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/hoshitsuki_film/

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