タニグチリウイチの「2025年 年間ベストアニメTOP10」 挑戦的なアニメ映画が豊作の1年
一番観た作品をここで第6位として挙げる。TVシリーズの続きという意味で『ゾンサガ』と同じ立ち位置の辻本貴則監督による映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』だ。6つのラップチームによるバトルを楽しむだけと言えば言えるが、勝ち負けをスマホからの投票で決めて即座に展開に反映させるインタラクション性は、リニアな映画にゲームのような分岐を与え、推しの勝利を見極め配信される画像を集めたいという心理に働きかけてリピーターを誘った。結局、すべてのチームと中王区が勝つエンディングと、中王区の画像欲しさに17回観て合歓の愛らしさに溺れた。やはり第1位でも良かったか?
第7位は上映館が少ないなか内容の面白さで満席が続出した内沼菜摘監督『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) ネクストシャイン!』。ライトノベルの原作第4巻を第12話まで放送のTVシリーズから間を置かず描きたい意識から第17話まで作り上げ、未放送分として先行上映した形式から「映画」かは迷うところ。ただ、それを言うなら『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』も長い原作の切り取りで、漫画の力も借りていることを思うと、小説からアニメへと変換してパワーを増した『わたなれ』を推すのが妥当だろう。
その流れで、第8位は劇場版『チェンソーマン レゼ篇』を挙げる。原作でもまとまりのある部分を抜き出し、藤本タツキが描くスタイリッシュだったが雑然として暴力的な漫画のファンには違和感もあったTVシリーズの中山竜監督から、吉原達矢監督へと替えてデンジとレゼとの甘やかで残酷な交流を描き、とてつもないアクションを見せきった。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』と似た位置づけのアニメ映画として評価できる。
第9位は『無名の人生』。鈴木竜也監督がひとりで描ききったという映像は決してハイクオリティとは言えないが、ひとりの人間が生まれ育って都会に出て、苦汁を舐めつつ日々を送っていった果てに訪れる宇宙スケールのフィナーレは、感動とともにセンス・オブ・ワンダーをもたらした。インディペンデントから生まれた鬼気迫る才能と作品だ。
第10位は久慈悟郎監督『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』。長大な原作の漫画をギュッと圧縮しつつ、戦争の現場の苛烈さを可愛らしいキャラで描いて依頼に繋げる役割を果たした。
海外作品を混ぜれば『Flow』や『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』『ズートピア2』が上位に並ぶため除外。とはいえ、ディズニーやピクサーとは違う出自やテイストながら一般性を持つ海外作品が、2026年1月30日公開の『マーズ・エクスプレス』など増える一方。韓国作品『Your Letter』のような新海誠監督の系譜にある作品も生まれてきており、ランキングに載せるかはともかく観ることに分け隔てはできない状況だ。
漫画原作のアニメ映画がとりわけ興行的に盛り上がる日本が、今後もアニメ作りのトップランナーで居続けるためにも、オリジナルが企画され観客が受け入れるサイクルを途絶えさせてはいけない。ランキングにはそうした思いを反映させた。