『ばけばけ』は“視聴者を信じた”朝ドラに 心の距離を縮めるか怪談がもたらす切なさ

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第11週「ガンバレ、オジョウサマ。」は、怪談を通じてトキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)が、考えや心を通わせていく物語。各所で絶賛されている、トキがヘブンの書斎へと敷居を跨ぐ際の明暗のコントラストをはっきりとさせた演出や、喜びを抑えきれない髙石あかりとトミー・バストウの初々しくかわいらしい演技に、観ているこちらがいつのまにか感極まってしまう。つくづく視聴者を信じた上で作られた朝ドラだと感じる週でもある。

 丑三つ時まで怪談を語り明かし、トキが大雄寺の住職(伊武雅刀)に『水あめを買う女』を聞きに再び訪れたりと、立ち寝をするほどに女中という域を超えてヘブンに尽くすトキ。それは献身的というよりかは、自分も怪談が、そしてヘブンが好きだからこその行動でもあるだろう。

 ただ、楽しい時間は長くは続かない。錦織(吉沢亮)がトキに告げたのは、怪談がヘブンの執筆している日本滞在記のラストピースになり得るということ、そしてトキが怪談を語れば語るほど滞在記は完成に近づき、その分ヘブンは日本からいなくなるということだった。

 つらい現実を突きつけられたトキは、昨夜とは打って変わって、心ここに在らず。「オトキシショウ」と呼ぶ声も、洗い物や風呂を言い訳にして、怪談を先送りにしようとする。あからさまなトキの態度の変化に、ヘブンもトキに寄り添い、「アナタノハナシ、アナタノ カンガエ、アナタノコトバ、スキデス」と少年のような真っ直ぐな眼差しで見つめる。

 「これは、初代藩主、松平直政公の頃のお話。そのころ、大雄寺の東側に小さな飴屋があったそうで……」とトキが語り出すと、ヘブンは嬉しそうに「ミズアメ?」と問いかける。トキは微笑み、小さく頷く。その心遣いをゆっくりと受け止め、ヘブンは「アリガトウ」と返した。ここから再び語り部へとスッと入っていく髙石の芝居にも驚くが、トキとヘブンの心の距離を縮める怪談が、ヘブンを日本から遠ざける要因にもなっていることが物語に切なさをもたらしている。

 そんな折に、松野家に届いたのがトキ宛の手紙。差出人は銀二郎(寛一郎)だ。第12週「サンポ、シマショウカ。」からは、まさかの銀二郎が再登場。ついに、イライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)も来日し、蛇と蛙(阿佐ヶ谷姉妹)が話しているように「男と女と女と男」の物語が展開される。主題歌「笑ったり転んだり」のラストフレーズが、週タイトルとかかっていることもポイントだ。

 ちなみに、第60話が放送になった12月19日は、髙石あかりの23歳の誕生日。全25週125回で構成される『ばけばけ』は、現在ほぼ折り返し地点にある。毎朝、温かな泣き笑いを届けてくれるこの物語も、春になる頃には最終回を迎えるのかと思うと寂しさが込み上げる気持ちは、トキがヘブンを思う心情に似ているのかもしれない。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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