『ばけばけ』が朝から“外国映画”に トミー・バストウが演じ分ける感情と年齢の変化
ヘブン(トミー・バストウ)が語る過去の結婚生活。『ばけばけ』(NHK総合)第53話は、過ぎ去った幸せな日々がヘブンに何をもたらしたのかを予感させる回となった。
トキ(髙石あかり)は、記者の梶谷から聞いたリヨ(北香那)のプロポーズの計画に動揺が止まらない。今、この瞬間にリヨからヘブンへプロポーズがおこなわれている。リヨのプロポーズが成功すれば、トキは女中を続けられ、20円の給金も受け取ることができるが、トキの心は無意識にそれを拒否しているようだ。恋の芽吹きを感じるトキの戸惑いが、微笑ましい。
リヨからプロポーズをされたヘブンは、真剣なリヨの心に寄り添い、どこか険しげな表情を見せる。ヘブンにも真剣に愛し、共に幸せになりたいと思う女性がいたからこそだ。
ギリシャで生まれ、アイルランドへ。その後フランス、ロンドンを転々としてきたヘブン。最終的にアメリカに渡り、さまざまな都市で生活してきた。かつて愛した女性と出会ったのは、オハイオ州シンシナティだった。
安アパートで下宿をしていたヘブンは無事新聞記者となった日、下宿先の下働きであったマーサ(ミーシャ・ブルックス)から、プレッツェルで祝福を受ける。マーサは、混血女性で、奴隷の娘だった。雇い主からひどい扱いを受けても、「Sorry」と繰り返すことしかできないマーサの様子からは、当時の差別意識の強さが感じられる。
ヘブンがそんなマーサを庇い守ったことで、2人の関係は進展し共に暮らすように。雨に濡れた身体を心配し、夕食を待っていてくれるマーサの優しさに触れたヘブンの表情は、戸惑いながらも、心底嬉しそうだ。父と母からの愛情を知らないまま生きてきたヘブンにとって、はじめて愛情を向けてくれたのが、マーサだったのだろう。
マーサとの幸福な生活、仕事での高い評価など、公私ともに順調なヘブンは、マーサにプロポーズ。しかし、当時のオハイオ州では、人種が違うもの同士の結婚は禁じられていた。マーサの「同情してくれるのもありがたいよ」という言葉には、マーサの人生の厳しさが感じ取れる。純粋な瞳で幸せを願うヘブンは、マーサを説得し2人は結婚することに。
牧師にすら「今ならまだ引き返せる」と言われてしまう結婚だったが、2人は永遠の愛を誓った。小さな教会で、差し込む夕日だけが祝福してくれるような結婚でも、ヘブンはマーサと一緒にいられればそれでよかったのだろう。第53話は幸福の絶頂まで描き、ヘブンとマーサの物語は第54話へと続くようだ。
作中でヘブンの当時の年齢は明かされていないが、モデルとなっている小泉八雲が混血女性と結婚したのは25歳の頃だ。第53話で描かれたヘブンの過去の回想シーンも、それくらいの年齢と考えて差し支えないだろう。回想シーンのヘブンには、40代の現在のヘブンとは異なる快活さと純粋さがうかがえた。どんな困難があろうと、明るい未来を信じきる無鉄砲さも感じられる若き日のヘブンの表情。バストウの高い演じ分け技術が感じられた。
幸せを信じてやまないヘブンは、どんな過ちを犯してしまったのだろうか。土地に根付くこと、人と共に生きることを怖く感じるほどトラウマになっている出来事に直面するヘブンを、バストウがどのように演じるのかにも注目したい。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK