『シバのおきて』柴犬・福助が教えてくれた“他者”の愛し方 人生が続いていく最終回に

 愛すべき“犬バカ”に贈るNHKドラマ10『シバのおきて〜われら犬バカ編集部〜』。毎週柴犬たちのかわいさに心底癒され、登場する人間たちの成長に自分自身も励まされてきた本作も、とうとう最終回を迎えた。

 突然倒れた福助にうろたえる相楽(大東俊介)と『シバONE』編集部メンバーたち。滑沢先生(松坂慶子)の診断では、一歩間違えれば命に関わる病気だった。打ちひしがれる相楽を見た石森は、上村(水川かたまり)と病気平癒の祈願に神社仏閣をめぐったり、新たな特集企画を編集部で組むなどして、元気になることを祈る。めでたく復帰した福助を連れて出勤してきた相楽は突然、自身と福助の『シバONE』引退を告げる。メンバーの説得に対して固い決意をみせる相楽に、石森は最後にある企画を思いつく。

 福助の回復を願って考案された特集企画、それが「私のシバ自慢」改め「私の“ダメ”シバ自慢」だ。理由は「こういうところが“ダメ”という方が『シバONE』らしい」から。“ダメ”とは言っても、たとえば「同じおかずは3日以上食べてくれない」「ジャンプして遊ばせるために設置したハードルをくぐってしまう」など、何とも微笑ましいものばかりだ。

 福助のダメポイントである「怖がり」を挙げ、取材中に起こった福ちゃんの怖がりエピソードを思い出し、笑顔を見せていた編集部。だが、次第に一同は胸を詰まらせ、言葉が続かなくなってしまう。結局どのエピソードも、“ダメ”とは言いながらも「うちのシバ自慢」なのだった。明確に示されてはいないものの、それはやはり、病に倒れた福助に対し「生きてくれているだけで十分なんだよ」というメッセージだったように思う。“犬バカ”のみならず、動物とともに暮らす人々の願いはただ一つ、彼らが元気でできる限りそばにいてくれることだからだ。大好物のフライドチキンを口にできないほど食欲を失った福助を、相楽一家が泣きながら囲む場面は特に、飼い主の切実な感情が表れるシーンだった。

 福助が復帰すると、今度は相楽が「“ダメシバ”について話すのなら、“ダメ飼い主”を取り上げないとフェアじゃないだろ」と、「ダメ飼い主自慢〜もしも私の人生にシバがいなかったら〜」を提案する。スタッフたちは、自分のダメな部分がいかに犬によって救われてきたかを告白する。人間は他者の存在によってしか成長できない。特に、言葉を話すことのできない動物の気持ちは、こちらから理解しよう、共感しようとしなければ、ともに幸せで穏やかな生活を送ることは困難だろう。

 第1話から比べると、相楽が福助を撫でるときの手つきや声のかけ方が変わったようだ。もちろん、相楽は初めから福助を愛する“犬バカ”だったわけだが、独りよがりではない、相手にとって望ましい愛し方を知らなかった。犬という、人間とはまた違う意思の疎通方法が必要な他者の存在によって、人間同士もまた互いを理解し合える関係になれる。編集部一同、こうして福助に救われたのだった。

 石森が最後に福助のために用意した「福ちゃんの夢叶えたろかスペシャル」は、相楽と福助が一緒に楽しい時間を過ごす企画だった。最後に相楽は、新藤(篠原悠伸)とのコラボによる愛犬ソングを披露する。編集長を辞めた相楽がその後選んだ別の道は大変意外なもので皆を驚かせたが、愛犬ソングにある〈君がいたから僕は救われたんだ ずっとそばで僕の背中を押してくれ〉という歌詞のとおり、福助と『シバONE』で過ごした時間が、彼の新しい人生の後押しをしたことに間違いはなかったし、もちろん傍では福助が見守っていた。最後の最後まで、骨の髄まで“犬バカ”な『シバONE』に笑わされ、時に感心し、泣かされながらも温かな気持ちにしてもらえるドラマであった。

■配信情報
ドラマ10『シバのおきて~われら犬バカ編集部~』
NHK ONEにて配信中
出演:大東駿介、飯豊まりえ、片桐はいり、こがけん、篠原悠伸、やす、黒田大輔、水川かたまり、瀧内公美、勝村政信、松坂慶子ほか
声の出演:柄本時生、津田健次郎
原作:片野ゆか 『平成犬バカ編集部』
脚本:徳尾浩司
音楽:YOUR SONG IS GOOD
プロデューサー:内藤愼介(NHK エンタープライズ)
演出:笠浦友愛、木村隆文、加地源一郎、村田有里(NHK エンタープライズ)
制作統括:高橋練(NHK エンタープライズ)、渡邊悟(NHK)
写真提供=NHK

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