『ヒロアカ』死柄木弔はなぜ共感を誘う? 『ジョーカー』にも通じる現代的ヴィラン像

 同様に悲劇的なエピソードを背負ったヴィランといえば、2019年に公開された映画『ジョーカー』のアーサー・フレックが思い浮かぶ。こちらも死柄木と同じく、誰にも手を差し伸べられずに追い詰められた人物だった。

 映画『ジョーカー』の主人公・アーサーは、作中では普通の青年だった彼が悪のカリスマ“ジョーカー”へと変貌していく姿が描かれている。

 元々アーサーは派遣会社でピエロとして働きつつ、コメディアンになることを夢見ていた人物。しかしその生活は貧困状態にあり、笑いが止まらなくなる発作にも苦しめられていた。さらに自分の父親ではないかとすがりついた富豪のトーマス・ウェインに冷淡な扱いを受け、ずっと憧れていたTV番組の司会者マレー・フランクリンから笑い者にされたことで、その絶望は頂点に達する。

 その一方でアーサーの凶行はメディアを通して広く伝えられ、社会に不満のある人々を焚きつけることに。終盤では、アーサーが暴徒たちの喝采を浴びるシーンも描かれていた。

 社会から見放された人物という点だけでなく、同じような境遇の人々を引き寄せるカリスマ的存在という意味でも、アーサーと死柄木は似ている。

とはいえ作中での描かれ方には、大きな違いもあった。『バットマン』本編はともかく本作の内容で言えば、アーサーは消極的に騒乱に巻き込まれるという立場で、続編の『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』でもその一線を踏み越えようとはしない。それに対して死柄木は積極的に組織を率いるばかりか、「あいつらのヒーローにならなきゃ」と責任感に突き動かされる面すらあった。

 そのほか同じ類型のキャラクターとしては、たとえば今期アニメ『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』の中尾八郎を挙げられるだろう。中尾はかつて仮面ライダーに憧れる少年だったが、父親がたい焼き屋の経営に失敗して借金まみれになり、自分を捨てていったという経験をもつ。そこで誰も父親と自分を助けてくれなかったという失意から、ヒーローは存在しないと悟り、ショッカーに憧れて生きるようになるのだった。

 こうしたヴィランに共通するのは、「他に生きる術がなかった」と思わせる圧倒的なリアリティを伴っていること。自らの意志で悪の道に進んだわけではなく、生まれや育ちが不運にまみれていた結果、社会と対立せざるを得なかったということがひしひしと伝わってくる。

 もちろんほとんどのヴィランは凶悪犯罪に手を染めているため、最終的にはヒーローの裁きを受ける運命にある。ただ、その姿には社会の矛盾を前にした苦しみや、綺麗ごとでは済まない人生の悲哀が秘められていることが多い。そのためヴィランたちの悲劇は、時としてヒーローの活躍よりもずっと深い印象を残すことになる。

 『僕のヒーローアカデミア』のFINAL SEASONでは、ヴィランとヒーローの最終決戦がいよいよ決着。「なぜ人はヴィランになるのか」を突き詰めた物語として、他に類を見ないほどの熱量に到達したので、その結末を最後まで見届けてほしい。

■放送情報
『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』
読売テレビ・日本テレビ系にて、毎週土曜17:30~放送
各動画配信プラットフォームにて毎週土曜18:00最新話順次配信
キャスト:山下大輝(緑谷出久役)、内山昂輝(死柄木弔役)、三宅健太(オールマイト役)、大塚明夫/神谷浩史(オール・フォー・ワン役)ほか
原作:堀越耕平(集英社ジャンプコミックス刊)
総監督:長崎健司
監督:中山奈緒美
シリーズ構成:黒田洋介(スタジオオルフェ)
キャラクターデザイン:馬越嘉彦・小田嶋瞳
美術監督:池田繁美・丸山由紀子(アトリエムサ)
色彩設計:菊地和子(Wish)
撮影監督:澤貴史
3DCG監督:安東容太
編集:坂本久美子
音響監督:三間雅文
音楽:林ゆうき
オープニングテーマ:「THE REVO」ポルノグラフィティ
エンディングテーマ:「I」 BUMP OF CHICKEN
プロダクション・スーパーバイズ:ボンズ
アニメーション制作:ボンズフィルム
©堀越耕平/集英社・僕のヒーローアカデミア製作委員会
公式サイト:https://heroaca.com/
公式X(旧Twitter):https://x.com/heroaca_anime
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