『チェンソーマン』天使の悪魔の“怠け癖”は愛の裏返し? 数々の反復モチーフを読み解く

 ほかにも劇場版『チェンソーマン レゼ篇』では、さまざまな形でセリフが反復・変奏されている。たとえばアキはパトロール中のやりとりで、天使の悪魔に対して「フリでもお前とは仲良くなれないな」という言葉を漏らす。その一方でレゼとの戦闘中には、間一髪のところで暴力の悪魔に助けられ、「はじめて悪魔とダチなりたいと思ったぜ」と口にしていた。

 またレゼのセリフで言えば、夜の学校に忍び込んだ際、デンジをプールに誘って「私が全部教えてあげる」と声をかける場面が印象的。中盤ではこれに紐づけられたシーンがあり、瀕死状態から復活したデンジに対して、レゼが「おいでデンジ君。私たちの戦い方ってのを教えてあげる」と誘う。しかもアニメ版ではこのふたつの場面でレゼが同じポーズを取る演出が追加されており、その対照性がより際立っていた。

 もっと分かりやすいところでは、作品全体を貫く「田舎のネズミ」と「都会のネズミ」のモチーフも外せない。これはイソップ寓話から引用されたもので、作中ではレゼがデンジに、天使の悪魔がアキに対して話をするところが描かれている。そして2人はいずれも田舎のネズミのような平穏な暮らしに憧れていたが、都会のネズミがひしめく路地裏でお互いの運命が交差する……という皮肉な結末を迎えるのだった。

 このように同作では、いくつかのモチーフが何度も作中で変奏されていくように物語が構成されている。原作は長編の途中に置かれた1エピソードでありながら、まるで独立した短編のように無駄がない作りとなっていることに驚かざるを得ない。

もし一度目の鑑賞でそこまで心に響かなかったという人がいたとしても、話の流れを頭に入れてから再挑戦すれば、きっとその完成度の高さを味わえるはず。アニメ史に残る美しいストーリーを堪能してほしい。

■公開情報
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』
全国公開中
キャスト:戸谷菊之介(デンジ)、井澤詩織(ポチタ)、楠木ともり(マキマ)、坂田将吾(早川アキ)、ファイルーズあい(パワー)、高橋花林(東山コベニ)、花江夏樹(ビーム)、内田夕夜(暴力の魔人)、内田真礼(天使の悪魔)、高橋英則(副隊長)、赤羽根健治(野茂)、乃村健次(謎の男)、喜多村英梨(台風の悪魔)、上田麗奈(レゼ)
原作:藤本タツキ『チェンソーマン』(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:𠮷原達矢
脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:杉山和隆
副監督:中園真登
サブキャラクターデザイン:山﨑爽太/駿
メインアニメーター:庄一
アクションディレクター:重次創太
悪魔デザイン:松浦力/押山清高
衣装デザイン:山本彩
美術監督:竹田悠介
色彩設計:中野尚美
カラースクリプト:りく
3DCG ディレクター:渡辺大貴、玉井真広
撮影監督:伊藤哲平
編集:吉武将人
音楽:牛尾憲輔
配給:東宝
制作:MAPPA
主題歌:米津玄師「IRIS OUT」(Sony Music Labels Inc.)
エンディングテーマ:米津玄師、宇多田ヒカル「JANE DOE」(Sony Music Labels Inc.)
©2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト ©藤本タツキ/集英社
公式サイト:https://chainsawman.dog/
公式X(旧Twitter):@CHAINSAWMAN_PR

関連記事