古谷一行×木の実ナナ『ピンクハンター』は令和では作れない? 軽妙洒脱な味わいを再発見

 音楽を担当しているのが井上忠夫(後の井上大輔)というのも特筆すべき点だ。ジャッキー吉川とブルー・コメッツで活躍後、「学園天国」や「ランナウェイ」をはじめとした歌謡曲のヒットメーカーとなった井上だが、ドラマの音楽を担当したのは本作と部分的に参加した『ゴリラ・警視庁捜査第8班』(テレビ朝日系)だけというレアぶり。本作では1979年に発表したシティポップの名盤『ダンシングシャドウズ』からリード曲「ビロード色の午後」のインストゥルメンタル版などが使用されている。

 原作は人気ミステリー作家、カーター・ブラウンによる『アル・ウィーラー警部』シリーズの『変死体』(1作目)と『ストリッパー』(2作目)。ハードボイルドのようでいて、実はお色気混じりのコミカルで軽妙な作品であり、評論家でコラムニストの小林信彦も盛んに取り上げて絶賛していた。事件のアウトラインと左近の女好きな性格は原作そのままだが、山口にあたる女警部補は日本版オリジナルである。

 左近の独特なキャラクターといい、ファッショナブルさといい、井上忠夫の起用といい、原作のチョイスといい、これまで多かった「人情もの」や「熱血もの」「アクションもの」とは異なる「新しいタイプのアダルトな刑事ドラマを作ろう」という制作陣の気概が伝わってくる。1979年は『俺たちは天使だ!』、『西部警察』、『噂の刑事トミーとマツ』、『探偵物語』など、後々語り継がれる伝説の刑事・探偵ドラマが生まれた年だが、『ピンクハンター』にはそのどれとも違う独特の味わいがあった。

 その後、「アダルトな刑事ドラマ」路線は本作の設定をそのまま引き継いだ『混浴露天風呂連続殺人』シリーズで見事に開花する。アーバンでファッショナブルな雰囲気をいさぎよく捨て、女性のヌードを大幅に増量、さらに濡れ場を作って、左近警部はダンディーというよりスケベになったが、最高視聴率36.3%(関西地区、関東地区は28.6%)を記録、第26作まで作られる大ヒットとなった。

 時代の徒花のような『ピンクハンター』だが、今あらためて軽妙洒脱な味わいを多くの人に再発見してもらいたい作品である。

【11月】サスペンス劇場「ピンクハンター」&「混浴露天風呂」シリーズ

■放送情報
『ピンクハンターI 日本に一人しかいない刑事』
CSホームドラマチャンネルにて、11月9日(日)22:30ほか放送
原作:カーター・ブラウン 
脚本:窪田篤人
出演:古谷一行、木の実ナナ、高橋昌也、金田龍之介、沢たまき、常田富士男

『ピンクハンターII 殺人ゆき新婚旅行』
CSホームドラマチャンネルにて、11月16日(日)22:30ほか放送
原作:カーター・ブラウン 
脚本:窪田篤人 
出演:古谷一行、木の実ナナ、金田龍之介、岡田眞澄、朝丘雪路、常田富士男、石橋蓮司
※11月23日(日)から毎週(日)22:30『混浴露天風呂シリーズ』を放送

©テレパック
番組詳細ページ:https://www.homedrama-ch.com/series/S86234

関連記事