『秒速5センチメートル』に至る“新海誠イズム”の原型 『ほしのこえ』はハッピーエンド?
10月24日より、フジテレビ(関東ローカル)にて新海誠監督のアニメ作品が3週連続で放送される。第1弾となる『秒速5センチメートル』は、キャリア初期の代表作として知られる名作だ。
しかしこれ以前にも、“新海監督の原点”と言えるような作品が存在する。2002年に発表された商業デビュー作『ほしのこえ』だ。本稿では同作の内容をあらためて振り返るとともに、アニメ版では描かれなかった“その先”の物語についても紹介したい。
『ほしのこえ』は、新海監督がほぼ単独で制作した短編アニメーション。当時は個人制作のアニメがまだ珍しかった時代で、その完成度の高さと繊細な映像表現が口コミで広まり、異例の注目を集めた。
内容としては人類と地球外生命体との戦いを描くSF作品でありながら、のちの代表作に通じる“遠く離れたふたりの交流”の主題がセンチメンタルに描かれている。
物語の舞台は、今より少し先の近未来。関東のとある中学に通う長峰美加子と寺尾昇は、同じ部活に所属する仲の良いクラスメイトだった。しかしある日、美加子が異星生命体と闘う国連宇宙軍のメンバーに選ばれ、物理的に会えない場所へと引き離されてしまう。
はじめのうちは携帯メールを使って頻繁に連絡を取り合っていたが、美加子が地球から離れるにつれ、半年に一度、1年に一度、そして8年に一度と、メールが届くまでの時間も長くなっていく。宇宙と地球に引き裂かれたふたりは、途方もない距離と時間の壁を越えて、お互いを想い続けることができるのか……。そんな少年少女の切ない遠距離恋愛が、物語の軸となっている。
時間的・物理的な距離を通して恋する男女の心の機微を描くという意味で、同作の主題は『秒速5センチメートル』に通じるところがあると言えるだろう。さらにその後生み出された集大成的な作品『君の名は。』でも、同じ主題が継承されている。
その一方でしばしば議論を呼ぶのは、同作がハッピーエンドなのかバッドエンドなのかということだ。というのも大人になった昇は美加子の後を追うように国連宇宙軍に入隊するものの、彼女はそのことを知らずに戦い続け、結局ふたりは再会しないまま幕を閉じてしまう。
果たしてふたりは再会できたのか、それとも……。なんとも余韻を残す結末に想像を巡らせたファンも多いだろうが、実はのちに発売された小説版やコミカライズ版では、“その先の物語”が補完されている。