“乗る恐怖”から“見る物語”へ 『ホーンテッドマンション』が挑んだ映画的仕掛け

 ディズニーランドの人気アトラクション「ホーンテッドマンション」は、乗客が“ドゥームバギー(死の車)”と呼ばれる黒いライドに乗り込み、幽霊屋敷を巡る体験型ホラーだ。ゲートをくぐると、肖像画が伸び上がる「ストレッチングルーム」で不気味な歓迎を受け、揺れるシャンデリアやダンスホールを抜けて、999人の幽霊たちと遭遇する。

 実際に体験したことのある人ならわかるだろう。あの館は恐怖を煽るためではなく、観客を幻想の内部へと誘い込むために設計されている。むしろ感じるのは、現実の重力から解き放たれるような陶酔感。「ホーンテッドマンション」は、恐怖を“見る”ものではなく、“体験する”ことそのものを目的としている。その没入の仕掛けこそが、1969年のオープン以来、半世紀以上にわたって来場者を魅了してきた理由なのだ。

 このライド感を、映画というメディアに移植するのは非常に難しい。観客が座席に固定された状態では、アトラクションの没入感を再現するのはほぼミッション・インポッシブルだからだ。しかし、ジャスティン・シミエン監督は無謀にもこのライド感にチャレンジ。2003年の映画版から20年、彼の手によってリメイクされた新しい『ホーンテッドマンション』(2023年)は、登場人物の造形からストーリー構成に至るまで、アトラクション的世界観が映画的文法へと再設計されている。

 舞台はルイジアナ州ニューオーリンズ。シングルマザーのギャビー(ロザリオ・ドーソン)は、かつて医師としてニューヨークで働いていたが、夫を事故で失い、息子トラヴィス(チェイス・W・ディロン)とともに新たな人生を求めて地元を離れ、荘厳な邸宅に引っ越してくる。だがその屋敷には長年にわたって幽霊たちが棲みついており、静かに異変が進行していた。

 その危機に対してギャビーは、ツアーガイドで元研究者のベン(ラキース・スタンフィールド)、霊媒師のハリエット(ティファニー・ハディッシュ)、神父のケント(オーウェン・ウィルソン)、歴史学者のブルース・デイヴィス教授(ダニー・デヴィート)という、奇妙な専門家チームを招集。 共同で幽霊の謎を解き明かそうと屋敷に挑む……。

 ジャスティン・シミエン監督と撮影監督ジェフリー・ウォルドロンがまず重視したのは、アトラクションの空間を実物で再現することだった。ウォルドロンはインタビューで「私たちは屋敷の実寸の3分の1を実際に建設しました。土台、柱、階段などをすべて備え、門までの実際の距離や道路なども完全に再現しました。そのため、ジャスティン・シミエンは物理的な空間とスケールを自在に扱うことができたのです」(※1)と語っている。

 CGではなく現実に屋敷を作ることで、観客が屋敷内を実際に歩いているかのようなリアリティを作り出した。

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