『ばけばけ』岡部たかし&池脇千鶴夫婦も見逃せない トキとヘブンに引き継がれる生き様
父親役が頼りない場合、得てして母親役はしっかり者である。『虎に翼』なら石田ゆり子が、しっかりして厳しさもありながら、優しさとかわいらしさも兼ね備えた、これ以上はない母親役を演じていた。そして、本作『ばけばけ』で母親役を演じるのは、池脇千鶴である。トキを抱きしめる手は、どこまでも優しかった。そして彼女が母親なら、貧乏暮らしにもきっと耐えられるはずだ。
彼女の映画における代表作に、名作『ジョゼと虎と魚たち』(2004年/以後、『ジョゼ』)や、『そこのみにて光輝く』(2014年)がある。両作とも、一目でわかる貧乏暮らしの上、ハンデを抱えていたり、不幸な状況であったりする。作中、何度も心が折れそうになりながらもギリギリで踏みとどまり、最後は逞しく生きていく。この弱さと強さを行ったり来たりする様は、彼女にしか表現できないものだ。特に『ジョゼ』における、電動車椅子で街を疾走するラストシーンが印象に残る。下半身麻痺のジョゼは常に恋人(妻夫木聡)に甘え、乳母車を押させるか、おんぶをせがった。自らの力で前に進もうとしなかった。だが恋人との別れを経て、彼女は自力で一歩を踏み出す。彼女のこれからの人生が輝かしいものであることを、示唆するシーンだ。
池脇千鶴は、「年齢を気にしたことがない」「美しくありたいと思ったこともない」と語る。岡部たかしは、40歳を過ぎて俳優で食えなくても、気にせず好きな芝居をやり続けた。2人の共通点は、自然体で肩の力を抜き、ありのままの人生を楽しんでいることだ。貧乏であっても、バカにされても、逆境に遭おうとも、笑って歩いていけるような、そんな2人だ。
ハンバート ハンバートによる主題歌「笑ったり転んだり」の中に、このような歌詞がある。
夕日がとても綺麗だね
野垂れ死ぬかもしれないね
これは、諦念の歌ではない。どんなに状況が悪くても、2人なら穏やかに笑って生きていけるという歌ではないか。今は時代の変化についていけず、ただ立ち尽くしている司之介だが、フミと一緒なら、また一歩を踏み出せるのではないか。その一歩は、トキとヘブンにも繋がっていくだろう。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK