『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』大ヒットの衝撃 プレスコ会話劇の妙と若手作家の未来

 亀山陽平監督のアニメ作品『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』が大絶賛のうちに全12話の放送・配信を終えた。ギャル語で喋るサイボーグ女子や、いかつい見た目だが心は優しい暴走族の女総長といったクセ強キャラたちによる脱力系の会話劇と、時折繰り広げられるアクションに心を誘われ目を奪われて、次に何が起こるかワクワクさせられっぱなしだったシリーズを振り返る。

会話劇の巧みさ

自主制作アニメーション『ミルキー☆ハイウェイ』本編

 テーブルに載ったもの言わぬロボットの首を挟んで、疲れたような口調で喋る警察官らしい女性(リョーコ)と、頭に角が生えたかわいらしい声の女子(チハル)が会話を繰り広げている。一段落付いたらしい空気の中、納得したかのように見えたリョーコが「もっかい最初から説明してくんない?」と言いだし、語尾に被せるようにチハルたちが「えーーっ」とのけぞる間合いと、直後に始まるシティポップ味のある音楽にヤられた人の数が知りたい。きっと大勢いるだろうから。

 『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』のシリーズを通して誰もが感じたことのひとつが、こうした会話劇の巧妙さだ。タイトルに続いて繰り広げられるシーンでも、首がまだ「体」についていたころのマキナと、取り調べを受けていたチハルの他にチンピラ風の男子2人、暴走族らしい長身の女子と逆に小さな男子が並んで、警察官の質問も聞かず勝手に喋って雑然とした雰囲気を醸し出す。

 話を進めるならシャキシャキとテンポよく会話を繋いでいくべきところを、逆に聞き取りづらくても雑然とさせることで、日常感を出しつつ6人が一筋縄ではいかないキャラであることを感じさせる。ショートアニメの枠にも収められる、実に巧いやり方だ。チンピラ風の2人の男子のうち、寡黙そうなカートが「具体的に『奉仕活動』って何するんすか?」と聞き、警察官が話を聞かない奴らだと思い込んで「だっか!」と返そうとして(「だから!」と言いかけて)、「……それはフツーに良い質問だ」と小声で言い直すあたりは、スッと落とす感じで観る人をクスッと笑わせる。

 そうした緩急で引きつける会話劇を、亀山陽平監督はあらかじめ声優たちによる演技を録音して、後から本編映像にハメこんでいくプレスコの形で作り上げた。ただし、プレスコ前にすでに、コンテを並べて監督自身が声を当てた映像が存在していて、声優たちはそれを元にセリフを喋った格好(※)。ダルそうなトーンやセリフが重なる演出をあらかじめ設定しておくことで、欲しい演技をもらいベストな間合いの会話劇を作り出した。

 会話のネタ自体も、漫才やコントのように四方八方に飛んでは落とす繰り返し。3分半という決して長くはない時間でも、興味を失えば飛ばしてしまう今の視聴者を惹きつけ続けた。暴走行為で捕まったチハルとマキナ以外に、やはり暴走行為をしていた長身女子のアカネに腰巾着のカナタ、砂糖の所持で捕まったサイボーグ男子のマックスとカートが、刑務所に入る代わりに古くなった惑星間走行列車の車両を掃除する奉仕活動を命じられ、乗り込んだ列車がなぜか暴走を始める。そんなスリリングな状況であるにも関わらず、『銀河特急ミルキー☆サブウェイ』は、脱力させられる会話やシチュエーションが連続して笑わずにはいられない。

 小田急のロマンスカー説より名鉄のパノラマカー説をとりたい列車のビジュアルはどこか懐かしく、飲食物の自動調理販売機が並んだ車両は昭和の時代のドライブインを思い出させて、未来の宇宙とのギャップで笑わせる。その調理販売機が出落ちではなく、メニューの天丼をフックにして、コワモテに見えるアカネが腰巾着のカナタを海老天の尻尾に例える展開で回収し、アカネとカナタのお互いを思う心情を描き出す。

 悪いことばかりするチンピラに見えて、実は誰かに役立ったことを感謝されたいと願っているマックスとカートも含め、登場するキャラたちにしっかりとした背景を与え、活躍の場を与える構成も心地良い。そうしたキャラたちを演じる声優陣の巧さも、面白さを何倍にも高めている。

声優陣の名演

 チンピラ風のサイボーグのうち明るいマックスは山谷祥生、ダルそうなカートは内山昂輝が演じて濃淡のあるバディ感を出し、実はアイドル好きのアカネは金元寿子、イキっているだけに見えて機械いじりの才能があるカナタを小市眞琴が演じて、それぞれのキャラを心情も含めてしっかりと感じさせる。

 そしてチハルとマキナ。家庭の事情もあるのかいつも飛ばし気味のマキナの横で、辟易としながら友だちとしてサポートするチハルを演じた寺澤百花は、2024年に放送されて大人気となった『負けヒロインが多すぎる!』に登場した小鞠知花と重なる愛らしさに気丈さを乗せて傍らにいてほしい人と思わせる。そしてマキナ役の永瀬アンナ。ギャルかヤンキーかといった強気の口調は、『全修。』のヒロインで自己主張の激しいアニメ監督の広瀬ナツ子と並ぶ名演だ。

 忘れてならないのは小松未可子。元ヤンらしいが犯罪者たちを相手にしすぎて疲れ果てたのか、口調がぞんざいになった警察官を演じ切って、『呪術廻戦』の禪院真希とはまた違った魅力を漂わせる。

 声優がハマり会話が愉快でシチュエーションに笑える展開が、意外性を見せた果てにたどり着く総力戦的なバトルの先で新たな驚きが待っている。そんな『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』が人気にならないはずがない。3DCGで制作されたキャラのルックも表情も動きも最高だったことは言うまでもない。

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