菅田将暉が大切にしている“媚びない姿勢” 三谷幸喜との再タッグで掴んだ手応え
三谷幸喜が25年ぶりに民放GP帯連ドラの脚本を手がける『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』が、10月1日よりフジテレビ系水10枠で放送される。舞台は1984年、ネオンきらめく渋谷。経済が膨張し、カルチャーが沸騰していた時代に、夢を追いながら空回りし、傷つき、それでも前へ進む若者たちの姿を、三谷流の笑いと涙で描き出す。
本作で主演を務めるのは菅田将暉。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』以来となる三谷作品への参加で、成功を夢見る演劇青年・久部三成をどう演じたのか。三谷との再タッグに挑む心境、役作りの裏側、そして1980年代のエネルギーをどう現代に届けるのかを聞いた。
三谷幸喜は「その人にしか出せないニュアンスを引き出してくる」
ーー三谷さんとのタッグは『鎌倉殿の13人』以来、約3年ぶり2度目となります。再びご一緒されることについて、撮影前にはどのような気持ちを抱かれましたか?
菅田将暉(以下、菅田):嬉しかったです。『鎌倉殿』の義経は大変で難しかったけど、本当に楽しかったんです。三谷さんの脚本って、コメディとシリアスが常に同居していて、人間を多面的に描いている。爆笑と号泣が同じ場面にあったりして、役者としては大変だけど挑戦しがいがある。大人数の群像劇をまた体験できるのが楽しみでした。
ーー本作には三谷さんご自身の体験も投影されていると伺いましたが、その点についてはどのように受け止められましたか。
菅田:聞いたときは、知らないことがたくさんありました。三谷さんのことだけでなく、ストリップ劇場で芸人さんが寄席のように間でネタをされてたりとか、当時の渋谷の様子とか……その辺は新鮮でした。物語の中にシェイクスピアのオマージュがたくさんあるのは新しいと思いました。三谷さんの言葉で言うと、当時の人々がポジティブで、明日について前向きで上を向いている、そんな印象でした。何もないんだけど、全部ある。変なエネルギーがいっぱい詰まっていた時代だったと三谷さんはおっしゃっていて。その感じを演じるのも楽しみだなと思いました。
ーー三谷さんが描かれるキャラクター像や、人間描写の魅力についてはどのように感じていますか?
菅田:人をよく見てるんだと思います。イメージで当て書きしたらその人そのままだった、なんてこともあるらしくて、今回も僕を含め何人かがそうみたいです。やりながら「僕ってこう見えてるんだ」と驚くこともあります。その人にしか出せないニュアンスを引き出してくる直感力がすごい。特にスピード感のある連ドラでは、役者のパーソナリティが自然に出るんですが、それがすごくいい味になっていると思います。
ーー物語全体はどのような作品になると感じていますか?
菅田:悲劇だと思ってください(笑)。これは喜劇ではないです。自分も演じていて、本当に見てられない悲劇だと思ってやっています。
ーー演じられる久部という人物を、菅田さんはどのように捉えていますか?
菅田:久部は本当にバカで、自分勝手なんです。演劇や蜷川先生、シェイクスピアへの愛情は本物だけど、基本空回り。三谷さんからも「もっと自分勝手でいい」「人の話を聞かなくていい」と言われました。主人公なのに嫌われ役で、徹底して嫌われたらいいなと思いながらやっています。
心の師匠は青山真治監督
ーーその中で久部を演じる面白さややりがいは、どんな部分にありますか?
菅田:それぞれが自分勝手な作品が好きなんです。調和しないからこそ個性が爆発する。しかも普段ドラマで共演しないような方々がレギュラーで揃っていて、独特の空気を感じられるのも楽しいです。
ーー劇中の久部にとって心の師匠は蜷川幸雄さんですが、菅田さんご自身にとって「心の師匠」と呼べる方はいらっしゃいますか?
菅田:青山真治監督です。19歳の頃に出会い、映画現場で怒鳴られて教わったことが原体験になっています。その後、蜷川さん演出の舞台も一本やらせていただきましたが、今も強く記憶に残っています。
ーー蜷川さんからの教えで、今回の演技に活かされていると感じることはありますか?
菅田:蜷川さん演出の舞台『ロミオとジュリエット』でロミオを演じたとき、「気持ちが昂ったら高いところに登れ」と言われたんです。実際にやってみると、エネルギーの出し方が全然違う。その体験を踏まえ、今回は立ち上がったり高いところに行ったり、身振りを少し大きくして演劇的な表現を意識しました。
ーー撮影現場には1980年代当時の雑誌があったとお聞きしました。目を通される中で、印象的だったことがあれば教えてください。
菅田:おすぎさんとピーコさんの連載ページを見つけたんですけど、すごく辛口で(笑)。でも、それが当時はちゃんと受け入れられていたんだなって思いました。劇評にしても批評にしても、厳しさの裏に愛やエネルギーがあるような雰囲気で。誌面に登場する人たちも表情が強くて、言葉もストレートで。中には「悪い男特集」みたいな企画まで組まれていて、今とはまったく真逆の時代性を感じました。