『あんぱん』が産んだ名言集 「逆転しない正義」「たっすいがー」など物語を支えた言葉たち

 最終回を前に振り返ると、NHK連続テレビ小説『あんぱん』は嵩(北村匠海)が「逆転しない正義」を探す夫婦の物語であると同時に、朝田三姉妹が戦争によって失ったものをそれぞれの形で取り戻していく物語でもあった。

 その歩みに寄り添ってきたのが、数々の言葉たちだ。台詞を超えて、時代を生き抜くための哲学や人生の指針として響いてきたフレーズを、改めてここで振り返りたい。

のぶ(今田美桜)「たまるかー!」

 まず最初に思い出されるのは、のぶ(今田美桜)の「たまるかー!」という叫びだ。第65話では、新聞社の入社試験に合格した瞬間、校舎を飛び出したのぶが「たまるかー!」と何度も声を張り上げ、勢いそのままに駆け抜けていくシーンがあった。両手を大きく振りながら涙ぐむ姿に、夢を掴んだ喜びと未来への昂揚感がそのまま凝縮されていたのだろう。驚きと歓びを一気に爆発させるこの一言は、ヒロインの感情の純度を最も鮮やかに伝える瞬間として、視聴者の耳に深く残った。

のぶ(今田美桜)「いごっそうになれ!」

 また忘れてはならないのが「いごっそうになれ」という励ましだ。「いごっそう」とは土佐弁で“思い込んだらがんとして動かない頑固者”を意味する。神社の石段を必死に登る嵩に、のぶは笑いながら「いごっそうになれ!」と声をかけた。のぶは「はちきん」と呼ばれる、思い立ったらすぐ行動する奔放な性格。一方の嵩は、じっと耐えながら力を蓄える粘り強さを持つ。対照的な2人を映し出したこの言葉は、互いを補い合う関係性を象徴していた。感情を表に出せない嵩に代わって、のぶが怒り、泣き、笑ってくれる。それが彼を奮い立たせ、漫画家を志す背中を押す力となっていく。

のぶ(今田美桜)「たっすいがー」

 のぶが嵩に投げつける「たっすいがー」も作中では多く登場してきた。就職面接で自分を卑下してばかりいる嵩に、のぶは「ほんま、たっすいがー!」と声を荒げる。その響きに込められていたのは罵倒ではなく、「もっとしっかり生きてほしい」という願いだった。戦地から帰還した嵩を前に、のぶが涙ながらに「たっすいがーの嵩のくせに、どればぁ心配したと思うちゅうがで。死ぬばぁ心配して損したわ」と叫んだ場面では、叱責と安堵と愛情がないまぜになった土佐弁の響きが胸を打つ。標準語では言い尽くせない複雑な感情が、この夫婦の絆を浮かび上がらせていた。

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