ディズニー版ではカットされた内容も? 『眠れる森の美女』原作のさまざまなバリエーション

 ディズニー長編アニメーション映画の歴史のなかで、3人目のプリンセスであるオーロラ姫。彼女が登場する『眠れる森の美女』(1959年)は、ディズニーの名作の1つとして知られている。原作はヨーロッパの古い民話をもとにしたもので、著者によってさまざまなバリエーションが楽しめるのが特徴だ。日本では『眠り姫』や『いばら姫』というタイトルでも親しまれており、グリム童話版とシャルル・ペロー版をミックスしたようなストーリーになっている場合が多い。本稿では、ディズニー版『眠れる森の美女』とその原作であるグリム童話版、ペロー版、そしてそれ以前のジャンバティスタ・バジーレ版などの違いを紹介していこう。

さまざまなバリエーションがある導入部分

 『眠れる森の美女』にはさまざまなバージョンがあるが、時系列を見ると17世紀にイタリアのバジーレによる『ペンタメローネ』に収録された『日と月とターリア』(ターリアは王女の名前)が最初にあり、これをもとにフランスのペローが『眠れる森の美女』を書いている。そして19世紀に入り、ドイツのグリム兄弟が新たなバージョンを発表した。

 日本でもっとも広く知られているのはグリム版だが、実は冒頭からほかのバージョンと大きく違う。グリム童話では、なかなか子どもに恵まれず悩んでいたある国の王妃が、カエルから「あなたは1年以内に子どもを産む」と言われ、その予言通り女の子を産んだという導入がある。これはほかのバージョンにはないもので、グリム兄弟が付け加えたと思われる。

 またオーロラ姫誕生の祝宴に招待されたのは、グリム版では12人の魔法使い、ペロー版では7人の妖精、バジーレ版では占い師たちだ。もう1人の魔法使い/妖精が招待されなかったのは、グリム版では「もてなすための皿が足りなかったから」、ペロー版では「すでに死んだか行方不明と思われていたから」となっている。ディズニー版でマレフィセントが「悪い妖精だから」招待されなかったのとは、かなり印象が違うのではないだろうか。

 祝宴に招待されず怒った魔法使い/妖精がかけた呪いは、グリム版、ペロー版、そしてディズニー版でも共通して「糸車の針に指を刺して死ぬ」というものだ。バジーレ版では、占い師たちが何度相談しても「麻糸が災いをもたらす」という予言が出る。

オーロラ姫は100年眠っていた?

 興味深いのは、グリム版とペロー版に共通していながら、ディズニー版ではカットされた最後の魔法使い/妖精が呪いを弱める内容だ。それは糸車の針に指を刺しても死なず、「“100年の”眠りにつく」というもの。そしてオーロラ姫が成長し呪いが現実のものになると、グリム版では王や王妃をはじめ城中の者が眠りにつき、ペロー版では娘を失った悲しみで王は城を去る。

 城はいばらで覆われ、100年の間侵入者を寄せつけずにいた。その後グリム版では、いばらに覆われた城の中に美しい王女が眠っていると噂を聞いた王子が城へ向かうと、すでに100年が経過していたので案外あっさり入れてしまう。そしてオーロラ姫にキスをし目覚めさせるというよく知られる展開になる。驚きなのはペロー版で、100年が経ったとき、オーロラ姫は王子のキスとは関係なく目覚めるのだ。そこへやってきた王子と出会い、恋に落ち結婚する。

 しかしさらに驚くのは、もっとも古いバージョンであるバジーレ版の展開だ。「麻糸が災いをもたらす」という予言通り、15歳の誕生日に麻の繊維が爪の間に刺さったターリアは、深い眠りに落ちてしまう。長い月日が経ち、城にやってきた王子はターリアのあまりの美しさに我慢できず、“愛の実を摘む”。そして彼女は眠ったまま男女の双子を出産するのだ。あるとき赤ん坊が母親の指を吸っていると、麻の繊維が抜けてターリアは目を覚ます。王子の行動はかなり問題だが、「子どもが母親を救う」という展開になっているのはおもしろい。

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