『ちはやふる-めぐり-』は誰もが“主人公”の物語だった 「めぐりあひて」の“続き”を願って
東京都の第二代表を決める最終予選の最終戦。梅園かるた部は、予選の初戦で敗れた王者·瑞沢と再戦することになる。めぐる(當真あみ)の相手は凪(原菜乃華)、風希(齋藤潤)の相手は懸心(藤原大祐)。読手を務めるのは、A級公認読手となった奏(上白石萌音)。9月10日に放送された『ちはやふる-めぐり-』(日本テレビ系)の最終話は、会場で見守る千早(広瀬すず)たち瑞沢のOB・OGを含め、これまでこのドラマに登場したキャラクターのほとんどが一堂に会する、まさに最終話にふさわしい大団円だ。
しかも目を見張るのは、エピソードの大半――およそ40分近くが梅園vs瑞沢の試合シーンに費やされることである。春馬(高村佳偉人)の双子の弟・翔(大西利空)が率いる北央がアドレに勝利したことで、梅園と瑞沢の勝者どちらかが全国に行ける。しかし千江莉(嵐莉菜)と八雲(坂元愛登)がすでに敗れているため、もう一戦も落とせない。窮地から怒涛の追い上げをみせるめぐると風希、草太(山時聡真)。そして三組ともが“運命戦”へともつれ込むのである。
読まれた札が自陣にあるほうが圧倒的に有利となる“運命戦”というシチュエーションは、原作においても映画版においても、この『ちはやふる』という物語で何度もクライマックスを担ってきた。特に印象的だったのは『上の句』の終盤。全国行きをかけた瑞沢と北央の試合で、運命戦で自陣の札が読まれないジンクスを抱えた太一は“ヒョロくん”こと木梨(坂口涼太郎)の陣にあった「ちは」――すなわち千早を象徴する札を抜こうと気迫いっぱいに手を伸ばし、相手のお手つきを誘った。
今回草太は、同じように敵陣の札をねらい、瑞沢の庭野(高橋佑大朗)がお手つきをすることで梅園に貴重な一勝をもたらす。一度選手というポジションを退いてマネージャーとして相手の研究に打ち込んだ草太が、庭野には相手につられる癖があるという特徴を見つけ、それを巧みに引き出した作戦によるものだ。そういった意味では、勝ちのパターンこそ先述の太一と同じではあるが、草太の場合は“狙い通り”の結果。自らの手で“運命”を破るべくして破ったという清々しさがそこにある。
また、『結び』のクライマックスでも新(新田真剣佑)率いる藤岡東と瑞沢の運命戦が描かれていたが、その時に残っていた札は「こいすてふ」と「しのぶれど」。それらは千早との関係をめぐる新(前者)と太一(後者)を象徴した札であった。今回めぐるvs凪、風希vs懸心の間に残った札は「めぐりあひて」と「よをこめて」。前者は紫式部の詠んだ、いわずもがなめぐるの得意札。そして後者は清少納言――清原諾子(きよはらのなぎこ)が詠んだ、すなわち凪を象徴する札である。
そうなればこの“運命”、どちらが読まれるのかはおおよそ推測できる。しかしながら「よをこめて」が梅園側にあり、「めぐりあひて」は瑞沢側。読み札として選ばれるのはめぐるであるが、それを取るのは凪。そして試合の勝者も凪になる。それはすなわち、前回の終盤で瑞沢戦に臨む際にめぐるが梅園メンバーに言った、「この道でよかったんだって証明してみせる」ことこそが、この試合の本質だからであろう。勝つとか負けるとかではなく、凪と向かい合い、今の自分の出せるすべてをぶつけること。さながらそれは『ロッキー』のような正真正銘のスポ根展開だ。
第1話の頃、めぐるは自分が“脇役”で、凪が“主人公”であると卑屈に捉えていた。しかし、かるたを通して彼女は変化し、たしかに“主人公”になった。だからといって凪が脇役になったわけでもなく、それぞれの青春においてそれぞれが主人公であるのだとこのドラマは示している。風希も懸心も、春馬も千江莉も草太も同じだ。ところで、以前風希がめぐるに抱いたささやかな好意のゆくえはふんわりとしたままで、今回彼は「めぐりあひて」を懸心に取られてしまった。これはもっと彼らの物語を続けてもらわなければ。
2016年から2018年にかけて公開された映画『ちはやふる』シリーズの10年後の世界を舞台にした作品。廃部の危機にある梅園高校・競技かるた部の藍沢めぐるが、顧問として赴任してきた大江奏と出会い、成長していく。
■配信情報
『ちはやふる-めぐり-』
TVer、Netflix、Huluにて配信中
出演:當真あみ、原菜乃華、齋藤潤、藤原大祐、山時聡真、大西利空、嵐莉菜、坂元愛登、高村佳偉人、橘優輝、石川雷蔵、瀬戸琴楓、髙橋佑大朗、藤枝喜輝、大友一生、漆山拓実、上白石萌音、内田有紀、要潤、榎本司、富田靖子、高橋努、波岡一喜、髙嶋政宏
ショーランナー:小泉徳宏
監督:藤田直哉、本田大介、松本千晶、吉田和弘
脚本:モノガタリラボ(小坂志宝、本田大介、松本千晶)、金子鈴幸
プロデューサー:榊原真由子、巣立恭平、中村薫、平田光一
企画・プロデューサー:北島直明
チーフプロデューサー:松本京子
音楽:横山克
主題歌:Perfume「巡ループ」(UNIVERSAL MUSIC LLC)
制作協力:ROBOT、ウインズモーメント
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/chihayafuru-meguri/
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