大森元貴が『あんぱん』で披露した圧巻の歌唱力 “嵩”北村匠海が創作への情熱を取り戻す

舞台美術の仕事を引き受けた嵩(北村匠海)が、久々に“描く”ことと真正面から向き合ったNHK連続テレビ小説『あんぱん』第99話。『あんぱん』はこれまでも、のぶ(今田美桜)との関係や漫画との向き合い方を通して、嵩の“生き方”をじっくりと描いてきたが、今回は一人のクリエイターとしての彼に光が当たった。そしてそこには、たくや(大森元貴)と六原(藤堂日向)の“ものづくり”へのまっすぐな姿勢と、のぶの静かな支えがあった。

舞台のタイトルは「見上げてごらん夜の星を」。たくやと六原から依頼された嵩は、その勢いにやや押されつつも、絵コンテ制作を引き受けることになる。しかも「明日までに」と急な納期。嵩は慌てながらも、一気に描き上げる。だが、提出後に「あと2枚必要です」と告げられ、さらなる追い込みに突入。制作に没頭しながらも、あまりにも個性的すぎる2人に戸惑いを抱えつつ、それでも彼は手を止めない。
そんな嵩の様子を見てのぶは「楽しそうだね」とそっと寄り添う。のぶが言うように、絵描きに没頭している時の嵩はどこか楽しげで生き生きとしているように見える。描くことは、嵩にとって仕事以上に、自分自身を表現するための手段であり、生きることと地続きの行為なのだ。

やがて迎えた本番前日。通し稽古を終えた後も、六原は細かい修正を加えていく。その情熱と妥協のなさに、たくやをはじめ演者たちはやや戸惑いを見せる。「もう十分いいものになってる」と言う声があがる一方で、六原だけは納得していない。良いものを作りたい。そのためには細部にこだわる。六原のその姿勢は、一見強引にも見えるが、真摯な“創作への愛”に支えられていた。その場にいる嵩は、そんな熱量に飲み込まれ、やや疲弊してしまう。嵩にとっては“関わる”以上に“引っ張られる”ような現場だったのかもしれない。それでも彼は最後まで向き合い続ける。自分の絵が、この舞台に何をもたらすのか——そんな問いを心のどこかに抱きながら。
そして、のぶは蘭子(河合優実)とともに差し入れを用意し、現場に届けに行く。その小さな行動に込められた“支える”という愛のかたちもまた、『あんぱん』らしい優しさだ。そんな中、六原はたくやに、「『見上げてごらん夜の星を』を歌ってほしい」と頼む。大森元貴による歌唱シーンは、まさに圧巻だった。舞台の世界観を損なうことなく、むしろ物語の芯を優しく、確かに照らし出すような声。その一曲が、場の空気をひとつにまとめていく。
迎えた本番当日。嵩の尽力もあり、舞台はなんとか上演までこぎつけた。嵩が描いた舞台美術も、たくやたちのパフォーマンスも、全てがきちんとひとつの作品として仕上がっていた。観客から贈られる温かい拍手は、そこに立つ誰かだけでなく、裏方として関わった嵩にも向けられていたようだった。

“ものづくり”とは、自分の思い通りにならないものとどう向き合うかの連続だ。嵩は今回、その現場に飛び込み、圧倒されながらも自分の役割をまっとうした。決して目立たない存在でも、そこで何かが確かに変わった。彼の中にあった創作への火が、再び灯り始めたようにも見えた。それはきっと、たくやの情熱に動かされ、のぶの言葉に救われ、六原の妥協のなさに打たれたからだ。そして、最後に観客の拍手がそのすべてを包み込んだ。『あんぱん』第99話は、嵩が“描く人”としてもう一度歩き出す、その小さな一歩を見守る物語だった。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















