『呪怨』Vシネマ版の恐怖は25年経っても色褪せない! “徹底した容赦のなさ”が起こす恐怖

 考えてみれば、池田敏春監督の『死霊の罠』(1988年)、石井てるよし監督・小中千昭脚本の『邪願霊』(1988年)、黒沢清監督の『スウィートホーム』(1989年)など、Jホラーブーム以前の日本製ホラーには強烈な人体破壊描写やド派手なパニックシーンがしっかり見せ場として盛り込まれていた。『呪怨』は、それらの「なかったことにされた」映画史を復活させる試みでもあったのかもしれない。

 複数の視点からバラバラの物語が進行するオムニバス風の構成も、いまなお新鮮である。しかも、クエンティン・タランティーノ『パルプ・フィクション』(1994年)のような、ある意味「古典的な物語のまとまり」には収斂されず、あちこちに生じた呪いが無軌道に伝播し広がっていく型破りな展開は、先行きの見えない不安と恐怖を誘った。のちにハリウッド版2作目のタイトルにもなる「パンデミック」の霊的解釈、あるいは「誰にも止められないまま世界が戦争に突入していく恐ろしさ」にも似ているのかもしれない。作劇の定型を逸脱するストーリーテリングは、海外のファンにはクリストファー・ノーランの初期作に匹敵する発明にも見えたのではないか。これまた原点には、鶴田法男監督のビデオ版『ほんとにあった怖い話』(1991年)をはじめとする心霊ホラービデオの構成の影響も感じられる。

 『呪怨』Vシネマ版は、『邪願霊』『ほんとにあった怖い話』といったホラービデオ作品の魅力とエッセンスを正しく継いだ作品でもあった。アナログ時代のビデオ画質は生々しい臨場感と禍々しさを生み、モニターの片隅に反射した自分自身の姿、その背後にある自室の空間さえも恐怖の増幅装置となる。それは劇場体験とはまた違う、ビデオならではの醍醐味だろう。

 今回の『呪怨』4K化で、最も大きな変化といえるのが、劇場で観ることを前提としたブラッシュアップが施されていることだ。もともと秒30コマのビデオ映像を、フィルムと同じ秒24コマに調整し、色味やコントラストなどを引き締めた結果、劇場の暗闇でこそ恐怖を最大限に発揮する作りになっている。また、当時の家庭用モニター基準に合わせたステレオ音声から、5.1chサラウンド化された音の広がりと奥行きも聴きどころだ。

 だからといって原典の魅力が失われたわけではまったくない。むしろ、プリミティブかつシンプルな作りで、誰もが期待する以上の成果を叩き出したVシネマ版のもともとの出来の良さをじっくりと堪能できる。いち早くレンタルビデオで『呪怨』Vシネマ版の洗礼を受けた初期のファンにもぜひ劇場へ駆けつけてもらいたいし、現代の若い客層にも「異形の快作ホラー」として十二分に通用するだろう。たったの25年ぐらいで、この恐怖は薄まらない。

■公開情報
『呪怨〈4K:Vシネマ版〉』
新宿バルト9ほかにて公開中
出演:柳ユーレイ(現・柳憂怜)、栗山千明、三輪ひとみ、三輪明日美、藤貴子、吉行由実、松山鷹志、洞口依子
監督・脚本:清水崇
2000年/日本/70分/5.1ch/スタンダード/カラー/DCP/映倫:G

『呪怨2〈4K:Vシネマ版〉』
新宿バルト9ほかにて公開中
出演:大家由祐子、芦川誠、藤井かほり、斎藤繭子、藤貴子、でんでん、諏訪太朗、ダンカン
監督・脚本:清水崇
2000年/日本/76分/5.1ch/スタンダード/カラー/DCP/映倫:G

配給:東映ビデオ
©東映ビデオ
公式サイト:https://www.toei-video.co.jp/juon4k/
公式X(旧Twitter):@juon4k
公式TikTok:www.tiktok.com/@juon4k

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