甲田まひる×浜崎慎治監督、映画『バババ』対談 「ナツロス」誕生秘話と創作への向き合い方

2人に共通している「面白いものを作りたい」という気持ち

映画『ババンババンバンバンパイア』×「ナツロス」【蘭丸と李仁の夏休み】大ヒット上映中

――物語が大きく動くタイミングで楽曲が流れる構成ですが、制作で工夫したことや難しかった点はありますか?

浜崎:本当にあのパートは難しかったです。映画の一幕が終わって、「これから夏が始まる」という、ちょうど物語のブリッジになる部分で、音楽の入り方も含めてかなり悩みました。

甲田:しかも、あそこはセリフがない挿入歌なので、下手したらMVみたいになりますよね。

浜崎:そうなんです。あそこは最初から「セリフなしでいこう」と決めていました。声を入れるとリアルになりすぎる気がして。あくまで心象風景として、“夏”の蘭丸と李仁の思い出、そして思春期ならではの微妙な距離感を、映像と音楽だけで表現したかったんです。子どもから15歳になっていくその変化や、蘭丸がずっとかわいがってきた李仁が、いつの間にか成長しているという切なさも描きたかった。あのポップだけど切ない感じを音楽でどう引き出すかが一番難しかったです。

甲田:でも、セリフがないのに気持ちが伝わってくるシーンになっていて、自分でもすごく好きな場面です。

浜崎:本当に素晴らしい映像になったと思うし、吉沢さんの演技も見事でした。あのシーンは「すごく良かった」と言ってくれる方が多いんです。

甲田:私も、自分で3秒に1回くらいSNSで反応をチェックしています(笑)。曲を書いたからっていうのもあるんですけど、それくらいお気に入りで。

浜崎:嬉しいですね。あのシーンだけ、他の場面と違う“エモさ”があって、観る人によってはかなりキュンと来るんじゃないかな。物語の登場シーンや歌のパートもいろいろありますが、“夏”と感情のブリッジを一番強く感じるのは「ナツロス」が流れるシーンですよね。

甲田:曲を書く立場としてもドキッとしました。今回はジャージー・クラブという、ここ2年くらいで海外のヒップホップシーンで定番化しているビートパターンを取り入れていて。ミックスにもすごくこだわって、キックの強さや音の響きを徹底的に調整しました。日本の映画館でああいうサウンドが響くのは新鮮で、すごくワクワクしました。洋画だと、トラヴィス・スコットみたいな海外のラッパーを使ってサウンドごと作品の世界観を作り上げる例が多いです。あの緊張感あるサウンドが映画館で流れるだけで、物語が一段ギアを上げた感じがして。すごく新しいチャレンジだったと思います。

浜崎:さすがですね(笑)。

――お話を伺っていると、お二人のクリエイターとしての姿勢や考え方に、共通する部分も多いのかなと感じます。

浜崎:いやいや、甲田さんのほうが大変ですよ(笑)。自分で全部作ってるわけですから、本当にすごいと思います。

甲田:そんなそんな(笑)。

甲田まひる

――今回ご一緒してみて、創作に対する姿勢や考え方で刺激を受けたこと、印象に残ったことなどはありますか?

浜崎:正直、最初は甲田さんが若いから、どんな感じなのかなと思っていました。でも、いざお話しすると本当に音楽が好きなんだなとすぐに分かって。話しやすいし、ご自身の中でしっかりと譲れない芯があるのも伝わってきた。レンジも広いし、要望を伝えると「ここだよ」とすぐにスポットを当てて形にしてくれる。そのセンスとレスポンスの速さには、素直に驚きました。

甲田:ありがとうございます。私はもともと“プロデューサー気質”というか、将来は自分のためだけじゃなくて、人のために曲を書いたり、プロデュースしたいという気持ちもあるんです。自分のやりたいことも大切だけど、誰かのために曲を書くことや、まったく自分じゃないタイプの楽曲を書くことにも魅力を感じるタイプで。実際、人に書くのも好きですし、オーダーをもらって、その中でどれくらい自分を出せるかを試すのも楽しい。だから、プロデュース的なことにはすごく興味があります。

浜崎:なるほど、それは甲田さんならではですよね。普通、自分で曲を作っていたらジャンルを広げるのは難しいはずなのに、本当に多彩な作品を生み出していて。だから才能だなと感じます。お題があった方が逆にやる気が出るタイプですか?

甲田:そうですね。縛りがあるというよりも、「材料が増える」くらいの感覚で受け止めてます。自分がゼロから作る時と、タイアップや依頼のときでは全然違って、どんなテーマにも柔軟に向き合いたい。どっちが好きかと言われると本当に選べないくらいです。自分で作るのも好きだけど、お題があると発見も多いので。

浜崎:その“面白さ”の捉え方がすごくいいですね。自分のために書くときと、オーダーを受けるときでは作業も違うんですか?

甲田:自分で作るときはやっぱり悩みますね。締め切りがないといつまでも終わらないタイプ(笑)。「夏祭り」みたいに明確なゴールがないと、どこまでも広がっちゃうので。逆にテーマがあるほうが集中できます。

浜崎慎治

浜崎:僕も映像を作るときは、脚本から大枠をイメージして、シーンごとに「これは何のためにあるか」を考えてカット割りを決めていきます。現場では天候やスケジュール、予算などいろんな制約があるけど、その中で「一番大事なものは何か」を見失わないようにしている。シーンの意味や役割を掴んでブレないようにするのが大事だと思っています。

甲田:そのプレッシャー、すごそうですね。

浜崎:いやいや、そんなことはないです(笑)。でも、映像って本当にいろんな人や要素が絡むので、現場は思い通りにいかないことも多い。台風が来たり、役者さんがケガしたり。監督は船頭みたいなものなので、みんなで力を合わせて乗り切る感じですね。大変だけど、面白いものができたときの喜びは格別です。

――「面白いものを作りたい」という気持ちは、お二人に共通しているんですね。

浜崎:そこは本当にそうですね。甲田さんの楽曲にも、面白さやカッコよさ、ポップさがすごくある。

甲田:面白いにもいろんな種類があると思うんです。私の場合は人がやっていないことや、挑戦的な選択をすることに面白さを感じます。普通や既存の枠に収まるのが一番怖いので、たとえ失敗しても、挑戦したほうが絶対に得るものがあると思うんです。そういう意味での面白いを大事にしています。

浜崎:面白いにもいろんな形がありますよね。どっちが良い悪いじゃなくて、それぞれの面白さを追求していけばいいと思うんです。

(左から)浜崎慎治、甲田まひる

――最後に映画をこれから観る方に向けてメッセージをお願いします。

浜崎:この映画、タイトルや「童貞」というワードに引っかかって敬遠している方もいるかもしれません。でも実は、誰が観ても楽しめる作品になっています。映画館を出たときに「面白かった!」と思ってもらえたら、それが一番うれしいです。音楽も盛りだくさんなので、「面白いものを観たい」という方はぜひ映画館に足を運んでいただきたいです。

甲田:私も劇場で何度も観ているんですが、それでも飽きることがないんです。本当にクセになる映画だなと思います。キャラクターも個性が強くて、観ているうちにどんどん愛着が湧いてくる。「また会いに行きたい」と思わせてくれる作品です。観終わった後も何度も思い出してしまう。そんな魅力がたくさん詰まった映画なので、ぜひ多くの方に観ていただきたいです。

■リリース情報
甲田まひる「ナツロス」
6月20日(金)リリース
Linkfire:https://mahirucoda.lnk.to/Natsuloss
公式サイト:https://mahirucoda.com/
Instagram:https://www.instagram.com/mahirucoda/
X(旧Twitter):https://twitter.com/mahirucoda
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■公開情報
『ババンババンバンバンパイア』
全国公開中
出演:吉沢亮、板垣李光人、原菜乃華、関口メンディー、満島真之介、眞栄田郷敦
原作:奥嶋ひろまさ『ババンババンバンバンパイア』(秋田書店『別冊少年チャンピオン』連載)
監督:浜崎慎治
脚本:松田裕子
主題歌:imase「いい湯だな 2025 imase × mabanua MIX 」(Virgin Music / ユニバーサル ミュージック)
挿入歌:「ナツロス」甲田まひる(Warner Music Japan)
製作幹事:松竹、テレビ朝日
制作プロダクション:ダーウィン
配給:松竹
製作:「ババンババンバンバンパイア」製作委員会
©2025「ババンババンバンバンパイア」製作委員会 ©奥嶋ひろまさ(秋田書店)2022
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/bababa-eiga/
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