渡辺謙こそ『国宝』の支柱である “花井半二郎”として披露した重厚にして流麗な演技

 彼が李監督とタッグを組むのは、『許されざる者』(2013年)と『怒り』(2016年)に続いてこれで3度目。どちらも今作と同じように、日本が誇る演技者たちが集結した作品である。その中核を担い、映画の顔となったのが渡辺だった。キャリアの初期から高い評価を得てきた彼の代表作は数多くあるが、とくに『怒り』は2010年代の彼の代表作だと断言できる。異論はないだろう。

 続く今作のモチーフになっているのは歌舞伎の世界であり、そのさらに深部にあるのは“才能と血筋”。この作品の軸となるものの体現者が、喜久雄と俊介の親として芸を伝授する半二郎役の渡辺だ。本作において極めて重要なポジションであり、主役とは別にこの映画の核となる存在である。作り手からすれば、やはりもっとも信頼する俳優に託さねばならなかっただろう。この役に配されたのが渡辺で納得だし、渡辺しか考えられない。

 しかしそんな彼でも、公式のコメントでは「こりゃ映像化は無理だ」と思っていたと語っている。渡辺は歌舞伎役者ではない。私たちには感じることのできない高いハードルがあったはずだ。けれども劇場へと足を運べば、私たちは彼の重厚にして流麗な演技に酔いしれることになる。セリフや表情もそうだが、彼は背中で語る。これに吉沢や横浜らもついていったのではないだろうか。渡辺謙こそ『国宝』の支柱である。

■公開情報
『国宝』
全国公開中
出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、永瀬正敏、嶋田久作 宮澤エマ、田中泯、渡辺謙
監督:李相日
脚本:奥寺佐渡子
原作:『国宝』吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
製作幹事:アニプレックス 、MYRIAGON STUDIO
制作プロダクション:クレデウス
配給:東宝
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
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