『鬼滅の刃』はなぜ世界的作品になったのか? アニプレックス×ufotableの先見性

アニプレックスとufotableの関係

 そうなのだ。『鬼滅の刃』は今や世界中から注目を集めるシリーズなのだ。TVアニメ『鬼滅の刃』の放送が始まった2019年4月当時、吾峠呼世晴による原作漫画の売上が累計350万部ほどだったことは知られた話。決して少なくはないが、第14巻まで出ていたことを考えると突出した数字ではなく、2年後に1億5000万部を突破する作品になるとも思われていなかった。

 ただ、次々と現れる強敵を相手に少年が挑み、打ち破っていくアクションがあり、そうした戦いや仲間たちとの出会いを通じて成長していくドラマがあってと、少年漫画として王道の要素はしっかり持っていた。加えて、主人公の竈門炭治郎という少年が、家族を殺し妹の禰豆子を鬼に変えた鬼舞辻無惨を恨んで倒そうとはしていても、途中で戦い倒していく鬼たちには悼む心を見せる優しさが読者の共感を誘っていた。こうした特徴が、ufotable制作によるハイクオリティのアニメを通して一気に広まったことで、原作を手に取る人が増えて一気に売上を伸ばしたようだ。

 こうなるともはや社会現象とも言える状況になって、アニメファンや原作ファンまで関心が広がっていった。そこに投入されたTVアニメの続編となる『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(2020年)は、コロナ禍で上映される作品が少なかったこともあって映画館の目玉作品となり、日本の映画史上で歴代最高の404億円という興行収入を達成してしまった。

 TVアニメの第2期となる『鬼滅の刃 遊廓編』からは、フジテレビが全国ネットで放送を始めて、より広範囲に作品が届くようになって認知を広げた。世界にも進出し、『「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』(2023年)は海外で観客動員80万人、興行収入11億円を記録する人気ぶりを見せた。アメリカのトランプ大統領が海外で作られた映画には関税をかけると発表したとき、ファンが大丈夫だろうかと真っ先に上げた作品が、『Demon Slayer』こと『鬼滅の刃』の『無限城編』だったほど。7月18日公開の第一章には、世界の目も注がれている。

 ここまで『鬼滅の刃』という作品が国民的どころか世界的になっていった背景には、やはりアニメ化を企画したアニプレックスと、制作に当たったufotableの働きが大きいだろう。アニプレックスとufotableの関係は、奈須きのこ原作の伝奇ライトノベル『空の境界』の劇場アニメ化に遡る。現在アニプレックスの社長を務める岩上敦宏が、ufotable制作によるTVアニメ『フタコイ オルタナティブ』(2005年)の飛び抜けたクオリティを見て声をかけたことで繋がった。

 『劇場版 空の境界』(2007年〜)のTVアニメ化では、時系列が前後しながら話が進んでいく原作を、入れ替えもせず総集編にもしないで原作どおりに全7章で映像化するという、無謀ともいえる方針で臨んで原作ファンを喜ばせた。もちろん、ufotableが手がけただけあって、1作1作のクオリティも素晴らしかったことも大きい。これによってアニプレックスとufotableのタッグは、アニメファンにとって安心の座組といった認識が広まった。

 他に手がけた『Fate/Zero』(2011年〜2012年)や『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』(2014年〜2015年)、『劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel]』(2017年〜2020年)もしっかり評判となり、信頼をより強固なものにしていった。

 あまり知られていないところでは、2011年にオリジナルビデオ作品のレーベル「アニメ文庫」を共同で立ち上げ、TVや映画ではできない企画をクリエイターに作らせる試みも行っていることだ。手がけた3作品の中には、『映画大好きポンポさん』の平尾隆之監督が、伊藤潤二の漫画をいち早くアニメ化した『ギョ』があって、凄絶な展開を描いて観客を戦慄させた。ホラー好きなら観ておきたい作品だ。

 こうした両社のタッグの中から『鬼滅の刃』も生まれてきた。『劇場版 空の境界』からアニプレックス側の宣伝担当として関わってきた高橋祐馬が『鬼滅の刃』のアニメ化を集英社に打診。一方で、信頼関係を築いていたufotableに制作を依頼してトライアングルが形成された。

 依頼を受けたufotableは、原作のストーリーを忠実になぞり、コミカルな部分も含めてアニメとして読者の期待を裏切らないようにした。アクションシーンでは圧巻の作画力の上に、撮影によるエフェクトを重ねて迫力の映像を作り出し、観る人を物語の世界へと引きずり込んだ。アニプレックスのほうは、海外展開も手がけて『鬼滅の刃』を全世界が待ち望む作品に押し上げた。

 結果、今の世界が『無限城編』公開に湧き立つ状況が生まれた。そこに不安はない。ufotableが作る以上はそうした期待が満たされることは確実にして絶対だからだ。ファンは感動の原作がufotableによってスケールアップされるだろう映像とドラマを、全三章の終わりまで浴び続けることができる。幸せな時間が始まった。

■放送情報
『特別編集版「鬼滅の刃」柱稽古編 柱結集編』
フジテレビ系にて、7月17日(木)19:00~放送
キャスト:花江夏樹(竈門炭治郎役)、鬼頭明里(竈門禰󠄀󠄀豆子役)、下野紘(我妻善逸役)、松岡禎丞(嘴平伊之助役)
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
アニメーション制作:ufotable
主題歌:Aimer「残響散歌」「朝が来る」
©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

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