『あんぱん』のぶのモデルが“ドキンちゃん”である意味 “グレー”を表現する今田美桜の強み

 祖母が昔、夢を持っていたというのは『あまちゃん』(2013年度前期)の夏ばっぱ(宮本信子)が若かりし頃、地元にリサイタルで来た憧れの橋幸夫とデュエットして、地元のアイドルのようになったというエピソードを思い出す。朝ドラを観ている高齢の女性たちの、あり得たかもしれない思いをくすぐることも朝ドラの役割である。

 メイコを演じている原菜乃華、琴子を演じている鳴海唯は『あんぱん』のヒロインオーディションを受けている。残念ながらヒロインの座を手に入れることはできなかったが、妹役や同僚役で色を添えることになった。原も鳴海も、朝ドラヒロインでもおかしくない清明さを湛えていて、それはまるで戦後の映画のヒロインたちに共通する希望の象徴のようである。今週、視聴率がぐんっと上がったのは、この清明さの力も手伝っているのではないだろうか。人間、黒い面もグレーな面もいろいろあるものとはいえ、だからこそ透明な光を求めてしまうものなのだと思う。

 一昔前だったらのぶがその役割を担うところだし、今田美桜はそういう演技もできるはず。だが、のぶは、間違えてしまった黒歴史や何が正しいかわからないグレーな面から目を逸らさないキャラクター。その分、脇のキャラクターが純粋な真っ白な光を担当しているのが『あんぱん』のおもしろいところだ。それはのぶが『アンパンマン』のドキンちゃんを意識したキャラクターだからだろう。ドキンちゃんは、ばいきんまんと同じく黴菌であり、世界には黴菌も必要な存在であるという哲学的な考え方に基づいている。やなせたかしの世界観は純粋な光だけではない。主人公に陰りも必要なのだ。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、妻夫木聡、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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