『あんぱん』“次郎”中島歩が遺した速記術が拓くのぶの未来 津田健次郎が一癖ある役で登場
一方その頃、のぶは街角で、人々の話し声を速記で書き留めていた。闇市で、行商人と客のやり取りに耳を傾け、笑い合う声、怒鳴り声、値段交渉のさざめきを、ただ黙って書き取っていく。彼女にとってそれは記録ではなく、活気にあふれる言葉に、戦後を生きる人々のエネルギーを感じ取っていたのだろう。
そんな彼女に声をかけたのが、一人の男・東海林明(津田健次郎)だった。強面で、問い詰めるような口調で理由を尋ねる彼に、のぶは「たくましい人らの会話を書き取りよったら、うちも励まされるがです」とまっすぐ答える。彼女の速記帳を覗き込んだ東海林はふと態度を変え、のぶを採用すると言い出す。彼は高知新報の編集局主任であり、のぶの“聞く力”と“書く力”に、一つの可能性を見出したのだった。それにしても、津田健次郎は王道のイケオジキャラも絶品だが、こういう少し一癖ある役も実に巧みに演じる。語気の強さの裏にある人間味、鋭さの中にちらつく優しさ。そのギャップを成立させる声と表情の妙は、まさにツダケンの真骨頂だ。
のぶにとって、これは次郎の夢の延長線ではなく、“自分の言葉”で社会とつながる新たな入口かもしれない。誰かの背中を追いかけるだけでなく、自分の足で立ち、自分の目で見て、自分の手で記録する。そういう生き方の第一歩が、今日、ようやく始まったのかもしれない。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK