『未知のソウル』に世界中の誰もが“共鳴”する 韓国ドラマの“王道”を更新した現代劇に
人生は最初から正解を選べない。選択したことを正解にしていく。いつからかそうした人生訓が人の口の端にのぼるようになった。ではもしも、正解を求め続ける生き方に行き詰まったら? Netflixで配信中の韓国ドラマ『未知のソウル』は、ままならない人生を前に足がすくんでいる人たちのためのドラマだ。
主人公は、双子姉妹であるユ・ミレとユ・ミジ(パク・ボヨン/一人二役)。性格が正反対の二人は、一卵性の見た目を利用し幼い時から周囲の隙を見てお互いに入れ替わっていた。勉強の苦手なミジの代わりに秀才のミレが試験を受け、逆に病弱なミレに代わってスポーツ万能なミジが徒競走で1位になるなど、互いの得意と不得意を交換し合っていた。成長した二人は別々の道を歩むようになるが、地元に残ったミジが、ソウルへ上京して就職したミレが大きな人生の危機に直面していることを知り、再び互いの人生の交換を提案する。
ドラマは双子の同級生であるホス(パク・ジニョン)とミジの再会や、生活を交換したミレが出会うイチゴ農家の主人・セジン(リュ・ギョンス)との心の交流などラブロマンスの展開もあるが、時代や社会的背景をもとにアクチュアルな題材を取ったことでより普遍的で、より愛される作品になっている。
ミジの回想から始まるエピソード1で、韓国の国家経済が破綻しIMFにより救済処置が開始されるというテレビのニュースを二人が見ている。大企業、中小・零細企業、下請け業を問わず企業が相次いで倒産し、中産階級も崩壊したことで多くの人々が路頭に迷った。家庭内不和による離婚や自殺者も増加するなど韓国経済と社会に深刻な影響を与えたこの事件は、2010年代くらいまで余波が残ったと言われている。大企業と中小企業、正規職と非正規職の間の賃金格差の急激な拡大と雇用不安、その結果として競争社会が加速した(※1)。最近では『二十五、二十一』や『おつかれさま』が作品の中の大きな出来事として描いていたことに比べれば、本作ではテレビ画面が映り込む程度だが、その後のソウルで生きる若者たちの姿を通し社会の分断の傷跡を見せる。
ソウルが舞台というのも意味がある。ミレとミジの故郷・ドゥソン里は架空の山村地域(ただし、特徴的な方言から全羅道付近だと思われる)だ。彼女たちのように地方に住む若者にとって、機会と希望の都市であるソウルを目指して故郷を出なければ学業も就職もチャンスがない(※2)。日本の首都である東京に出てこずとも、生きる道が断たれるとまでは言えないだろう。一方、ソウルには約5千万人の人口の半分が首都圏に暮らし、誰もがソウルを目指すという「インソウル(In Seoul)」という言葉が生まれるぐらいだ(※3)。公務員試験に落ちたミレは代わりにソウルの公社に入社するが、内部告発したことを理由に陰湿ないじめに遭い、さらに懇意にしていた先輩からセクハラを受ける。幼いころから体が弱く、「周りに迷惑ばかりかける」という思いに苛まれていたミレは、怪我をして休職しようとまで追い詰められても故郷に戻れないのだ。
名脚本家として知られるホン姉妹によるチャン・グンソクとパク・シネの『美男〈イケメン〉ですね』が、双子の兄になり替わり妹が大人気バンドへ加入するラブコメディだったように、そっくりな見た目の二人が入れ替わるというのは、ある意味で韓国ドラマの王道と言える。