一方で、のぶたちは生き残った人間として立ち止まってばかりはいられない。「やっと終わったがやき、これからの話をせんかえ？」という次郎の言葉で、暗く沈んだのぶの表情に少しだけ明るさが戻ったような気がした。ただ、戦争が終わったら生徒たちに楽しい授業がしたいというのぶの夢は誰もが生きるのに必死な今の状況では叶えられそうもない。もう一つの夢は、次郎と船に乗っていろんな国を巡ること。次郎もまた、いろいろな国の人たちの写真を撮りたいという夢があった。

　しかし、次郎は「今はもっと大事な夢ができた」と語り、日記に記号のようなものを書き記す。それが、人が話した言葉を素早く書き取るために使われていた“速記”という特殊文字だとのぶが知ったのは数日後のこと。義母の節子（神野三鈴）と療養食を作りながら、昔から珍しいものに興味があったという次郎の話で盛り上がっていた。ところが、次郎の肺の病気が悪化し、その危篤を知らせる電報が届く。今まで信じてきたものがことごとく否定されてもなお、のぶがどうにか立っていられるのは次郎の存在あってこそ。それなのに次郎まで失ってしまったら、いよいよのぶの心は壊れてしまうのではないか。いつかのぶが嵩（北村匠海）と結婚することは分かっている。それでも、今はただ次郎の無事を心から祈ってしまうのは、中島歩の眼差しからのぶへの深い愛情がひしひしと感じられるからだろう。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送／毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送／毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送／毎週土曜10:15～11:30再放送
出演：今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽：井筒昭雄
主題歌：RADWIMPS「賜物」
語り：林田理沙アナウンサー
制作統括：倉崎憲
プロデューサー：中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出：柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供＝NHK