池田エライザ「自分のことを考える時間にしてもらえたら」 『舟を編む』で得た“言葉”とは
海辺のシーンは勝手に思い出を作って泣いた
――BS放送時にもとても反響のあった海辺で泣くシーンについても少しお話をお願いします。みどりの泣きの移り変わりの表情に、言葉の注釈が付いていくという見たことのない演出でした。脚本がどんなだったのか、気になります。
池田：ヤバい脚本ですよ（笑）。みなさんの想像以上に、文字しか書いてないです。「ここでこんなことを思い出して泣く」とかじゃなくて。「嘆息」「涕泣（ていきゅう）」「嗚咽（おえつ）」「慟哭（どうこく）」という文字と、それぞれの語釈が書いてあるだけ。「これはなんだろう。私がこれで泣くってことかな？」みたいな。それでその種類に沿って、そこまで撮影してきた撮影を思い出して、思い出を勝手に作りながら感情を乗せていきました。たとえば彼氏役で登場する鈴木伸之さんと、「あそこに旅行に行ったな」とか勝手に思い出を自分で作って泣きました（笑）。
――「嘆息」「涕泣」「嗚咽」「慟哭」と、ご自身の泣き顔に文字が付いた本編をご覧になった感想は？
池田：「これはいま、こういう状態です」と説明されるって、ちょっとないですよね。とにかく現場の環境がすごくよかったんですよね。みんなで一気に集中して。何回もできないとみなさん配慮してくださったので、すごくやりやすい環境を整えてくださって、一発でグワっとできたので、スカっとしました。放送された本編を観て、ちょっと泣きそうになりました。いつもカッコつけている自分が、子どもみたいな顔で泣いているなと。でもそんな自分もいい顔をしているなと思いました。
未来も夢もいつだって形を変えていっていい
――さて、時間をかけて作られる辞書づくりや、時間を積み重ねて伝わっていく言葉ですが、ご自身の役者という仕事と「時間」に、照らし合わせて感じることがありましたら教えてください。
池田：今回、コロナ禍のシーンを通して特に感じたのですが、大きな目標を持つこと自体は悪くないのですけれど、目標を持つのであれば、自分が思い描いている未来が、いつだって変わりかねないことも念頭においておくべきだと思いました。
――未来は変わりかねない。
池田：「私はこういう女優さんになりたい」と思っていたとします。でも時代が変わったら、価値観が変わったら、思い描いてきた女優さんという自分を否定しなきゃいけなくなるかもしれない。未来に思いを馳せ、夢を抱きつつ、でもその夢はいつだって形を変えていっていいのだということを、許してあげる。演じながら、そのことが自分に対してもすごく響きました。私はもともとそんなに大きな夢を抱くタイプではないけれど、「こうあるべき」というのは少なからずありました。でもそれがその都度変わるのはいい加減なことではなくて、非常に賢い生き方なんじゃないかなと思いました。
――ありがとうございます。最後に改めて、地上波放送にあわせてひと言お願いします。
池田：とてもかわいくて愛おしい作品です。ずっと言い続けているのですが、私のための作品にもなりましたし、みなさんのための作品にもなればいいなと思っています。言葉たちを浴びるように、そこに込められた思いを浴びるように、「これは自分のための時間です」という45分間を過ごしてもらえたら。手元に携帯があると、誰かのことを考える時間が長くなるけれど、このドラマを観るときは、できれば自分のための時間にしようと思ってもらえたら、こんなに幸せなことはないです。
■放送情報
ドラマ10『舟を編む ～私、辞書つくります～』（全10回）
NHK総合にて、6月17日（火）スタート 毎週火曜22:00～22:45放送
再放送： 毎週木曜24:35〜25:20
出演：池田エライザ、野田洋次郎、矢本悠馬、美村里江、渡辺真起子、前田旺志郎、岩松了、向井理、柴田恭兵ほか
原作：三浦しをん『舟を編む』
脚本：蛭田直美（全話） 塩塚夢（第5話共同執筆）
音楽：Face 2 fake
演出：塚本連平、麻生学、安食大輔
制作統括：高明希（AX-ON）、遠藤理史（NHK）、訓覇圭（NHK エンタープライズ）
公式サイト：https://www.nhk.jp/p/funewoamu/ts/GZ8RQ7PNJ1/
写真提供＝NHK
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＜応募締切＞
7月1日（火）