『国宝』の横浜流星が圧巻 陰と陽の“二面性”を存分に味わえる傑作に

“陰”気質の映画俳優・横浜流星

 一方で映画俳優・横浜流星はドラマのような陽のイメージとは正反対の“陰”の役柄を演じることが多い。

 『片思い世界』で、仲の良かった友人が事件に巻き込まれてしまった一方で自分だけ助かったことに罪悪感を抱く「サバイバーズ・ギルト」に苛む高杉典真を演じたことは記憶に新しい。

 重苦しい過去や厳しい経験などを受ける“陰”の印象が強い役柄が目立つ傾向は、2024年以前の作品でも同様だ。

 脱獄死刑囚を演じた『正体』、ボクシングに打ち込む中で網膜裂孔になり、やがて失明にいたる『春に散る』、犯罪者の父とギャンブル依存症の母を持つ『ヴィレッジ』、川の氾濫で両親と妹を失う『線は、僕を描く』、DVモラハラ男を演じた『流浪の月』など、「生きづらさ」や「喪失」を内包する役柄があまりにも多い。

 陰気質な演技は視聴者に多大なるインパクトを与えており、『流浪の月』公開後には横浜自身のInstagramのフォロワーが約3万人減ったほどである。

陰陽併せ持つ大垣俊介

 陰も陽も演じてきた横浜流星が今回挑戦したのは、歌舞伎名門の御曹司・大垣俊介で、主人公の立花喜久雄の親友でありライバルとなる存在。
 
 物語序盤は生まれつきの明るい性格と順風満帆な人生も相まって“陽”のオーラがあふれる。報道関係者からのインタビューに饒舌に語ったり、「役者というのは借金してでもあっちやこっちや花火上げるもんや」とクラブでの打ち上げで豪語したりするなど、とにかくイケイケだ。

 しかし、物語中盤から状況が一変。父である花井半次郎(渡辺謙)の跡取り問題や自身の病気など数々の不幸が襲い、彼の周りには“陰”の雰囲気が取り巻く。

 それでも、“陰”一辺倒にはならず、晩年は様々なことに苦しみながらもどこか幸せそうな、辛そうながらも楽しそうな、そんな奥行きのある「大垣俊介」という魅力的な人物が完成している。

 物語終盤、俊介は持病が悪化したため、義足で舞台に立つというシーンがある。強行突破を試みるものの、立っているのもままならない状態にまで追い込まれ、這うようにしながら舞台をあとにする。一見すると不幸な描写にも思えるが、俊介の充実感溢れる顔や気迫を目の当たりにすると、彼は絶望ではなく希望のなかを生きているのだと思わずにはいられない。

 これは、誰にでもできることではなく、これまで“陰”も“陽”もストイックに追求してきた横浜流星だからこそ到達できた域ではなかろうか。

 これまで“陽”か“陰”の役柄を演じてきた横浜流星は、『国宝』では陰陽併せ持つ人物を歌舞伎という独特の世界観のなかで生き抜いてみせた。

 まもなく折り返し地点を迎える主演作『べらぼう』や今後多く生まれるであろう彼の名作も、楽しみに見守り続けていきたい。

■公開情報
『国宝』
全国公開中
出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、永瀬正敏、嶋田久作 宮澤エマ、田中泯、渡辺謙
監督:李相日
脚本:奥寺佐渡子
原作:『国宝』吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
製作幹事:アニプレックス 、MYRIAGON STUDIO
制作プロダクション:クレデウス
配給:東宝
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
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