『べらぼう』横浜流星の芝居も物語自体も「そう来たか!」の連続 誰袖の暗躍にもゾクゾク

 そして「お前は蔦屋史上とびきりの『そう来たか』になるんだ。俺がそうしてぇんだよ」といい切ったのが、歌麿のこれからについて。今はどんな画風でも描ける絵師として存分に名を売っていく。そのうち世間は、歌麿がどんなオリジナルを描くのかと見たくなるに違いない。そのタイミングを見計らって、唯一無二の画風で描いた作品をぶつけていく。歌麿と肩を組み「実は考えてんだよ、まだ言わねぇけどな」と笑う蔦重。そんな蔦重の嬉しそうな顔を見ながら、幸せを噛みしめる歌麿。改めて2人が、再会できて良かったと心が暖かくなった。

 再会といえば、かぼちゃの旦那こと大文字屋(伊藤淳史)に瓜二つの二代目(伊藤淳史/1人2役)が登場したのも嬉しい展開。しかも、何かと怒鳴り散らした先代とは打って変わって柔和な人柄なところも面白いポイント。そんな二代目・大文字屋は「加保茶元成」という狂歌師でもあることから、これからさらに活躍してくれるのではないかと期待が高まる。

 そして、今後の注目といえばもちろん誰袖の暗躍。先代大文字屋の今際の際に、蔦重との身請け話を遺言として書かせるほど行動力のある誰袖のこと、一目惚れした意知のことも逃しはしない。志げ(山村紅葉)を使って意知が何を求めているのかを突き止め、再び大文字屋を訪れるように手紙を送る。吉原に出入りする松前家の者や蝦夷物産を扱う商人らの情報提供を持ちかけ、その見返りに「身請けをしておくんなんし」と交渉する。そのしたたかさにゾクゾクする。

 もちろん、世の中そんな誰袖のような鋼の心を持つものばかりではない。歌麿の名を広めようと蔦重が開いた宴では、生真面目な恋川春町(岡山天音)が悶々とした表情を浮かべていたのも気になるところ。絵も文も書けるという意味で、春町は政演を意識していたところがあったのだろう。しかも、政演が成功した『御存商売物』は、春町が書いた『辞闘戦新根』と似ていると感じたようだ。

 「これはパクリでは?」「いやいや似てるだけだ!」「オマージュだ!」なんて議論は、今の世でも聞こえてくるもの。そんな春町の姿に、どれだけ時代が移ろっても人間の本質は変わらないような親しみを覚える。酒もまわりいつもよりもさらに陽気な政演に絡まれた春町は、いよいよ爆発。

 政演を評価する南畝らをも避難する狂歌を詠んで回る姿は、現代の即興ラップで魂の叫びをぶつけるラッパーのようだった。春町にとっては笑いごとではないとはわかっていても、突然狂歌バトルが開始した挙げ句、次郎兵衛(中村蒼)が屁を放ったとなれば笑わずにはいられない。「俺たちは屁だー!」と大騒ぎする南畝たちに、すっかり打ちのめされてしまった春町は、筆を折ってそのまま宴の席を離れた。

 意次と蔦重が思い描く夢を中心に渦が生まれる。私たちは史実で、その渦の先に何が待っているのかを知っているだけに胸がザワつくが、その夢に向かって懸命に生きる彼らの輝きをしかと目に焼き付けたい。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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