『ミッション:インポッシブル』で最も“現実離れ”したスパイ道具は? トンデモ科学を考察

5秒でメッセージ完全消滅は物理法則に反する

 また、5秒後で完全消滅する指令システムは短時間でメッセージを伝えたテープ類等々の物自体が消失してしまうなど、まるで物理学の質量保存の法則を無視しているかのような一面があり、実現は困難だと考えられる。消滅させることだけを考えるなら、「すぐに溶ける紙に記す」、「ウェハース等々に記して食べて消滅させる」などでも可能だが、秘匿性が低いし、スタイリッシュではない。

 メッセージを消すことだけを考えると、中央大学理工学部の竹内健教授のグループが開発に成功した「忘れられる権利」を実現するメモリシステムがある(※3)。データの寿命を設定することで、指定した時点で自動的にデータが壊れるシステムで、デバイスが再利用できる点に特徴がある。メッセージは消えても、映画のように物が消えてなくなることはないため、5秒後の完全消滅は難しそうだ。

 しかし、最新作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』などに登場する電子媒体では、昔とは事情が異なってきた。記録されたメッセージが再生されると、本体は残り、記録部分だけが煙を出して消失するのである。上記の中央大学理工学部の技術もあるし、これなら実現可能な気がする。

 一方、アメリカでは国防省の特別機関DARPAが軍用デバイスの自己破壊システムを研究中だと報じられているが、実用化には至っていないようだ。これを報じたCBS NEWSによると、使い捨ての電子機器が環境に無害な物質に分解されるか、人体に吸収される可能性があるという(※4)。この方法では、媒体が分解されるまで、相当の時間がかかることが予想できるため、5秒で消滅するのは無理に思える。

 こちらも完璧変装システムと状況は似ている。研究・開発中の技術は現実に存在するが、それが映画内でエンタメレベルに拡張されているのだ。

 このように見てくると、『ミッション:インポッシブル』シリーズは近未来技術をトンデモレベルまで拡張したスパイガジェット群を巧みに用いることで、現実とフィクションの境界を操り、観客を魅了してきたことが分かる。これこそが本シリーズ最大の「魔術」かもしれない。

参照
※1. https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adq6141
※2. https://www.cbsnews.com/news/former-cia-disguise-chief-the-mission-impossible-the-final-reckoning-gadget/
※3. https://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/press/2015/06/517/
※4. https://www.cbsnews.com/news/military-wants-mission-impossible-self-destructing-devices/

■放送情報
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』
日本テレビ系にて、5月30日(金)21:00~23:59放送
※放送枠65分拡大 ※本編ノーカット

出演:トム・クルーズ(森川智之)、ヘンリー・カヴィル(DAIGO)、ヴィング・レイムス(手塚秀彰)、サイモン・ペッグ(根本泰彦)、レベッカ・ファーガソン(甲斐田裕子)、ショーン・ハリス (中尾隆聖)、アンジェラ・バセット(高島雅羅)、ヴァネッサ・カービー(広瀬アリス)、ミシェル・モナハン(岡寛恵)、ウェス・ベントリー(松本忍)、フレデリック・シュミット(遠藤大智)、アレック・ボールドウィン(田中正彦)
監督・脚本:クリストファー・マッカリー
製作:トム・クルーズ、クリストファー・マッカリー、ジェイク・マイヤーズ、J・J・エイブラムス
©2025 Paramount Pictures.

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