その夜、のぶは一番の職人である草吉に乾パン作りを託そうとするが、草吉はそれを頑なに拒否。草吉のこれまでの立ち振る舞いからすると、きっと断るだろうなと思っていたが、それを聞いた釜次は大激怒。しかし、蘭子は草吉の気持ちを理解していた。「なんとなく、わかる気がする」と静かに呟く蘭子の表情には、誰にもぶつけられないやるせなさと、それでも共感しようとする優しさが滲んでいた。

　とはいえ、草吉がやりたくないのであれば仕方がない。のぶと羽多子（江口のりこ）はそれぞれ学校と婦人会に断りの連絡を入れることに。だが、のぶが申し入れを断ると、校長の古山（中尾隆聖）から校長室に呼び出されてしまう。一方の羽多子も婦人会から非難を浴びる。誰かが焼かねばならない乾パン。それを引き受けなかったことで、朝田家は“非国民”とまではいかずとも、白い目で見られる立場に追いやられる。個人の意思と、社会の空気。その板挟みの中で、のぶや羽多子が静かに背負わされたものの重さを思うと、胸が締めつけられる。戦時下という時代の中で、誰かの「やりたくない」を尊重することが、これほどまでに困難であるとは。草吉の沈黙ものぶの決断も、どちらも等しく尊いと思えてならない。

　なんとか草吉を説得しようと考えたのぶだが、「うちはもう戦争なんか関わりとうない」と語る蘭子と対立してしまう。のぶにとっては、乾パン作りは朝田家として、そして教育者としての責任でもあったのだろう。声を荒らげるでもなく、涙を流すでもない姉妹のすれ違いは、かえって深く心に残る。守ることと、断ち切ること。そのどちらも選べずに立ち尽くす彼女たちの表情が、今も胸に焼きついている。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送／毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送／毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送／毎週土曜10:15～11:30再放送
出演：今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽：井筒昭雄
主題歌：RADWIMPS「賜物」
語り：林田理沙アナウンサー
制作統括：倉崎憲
プロデューサー：中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出：柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供＝NHK