ユニクロがカンヌ国際映画祭でパネルイベントを実施 “難民経験”のある映画監督を支援
第78回カンヌ国際映画祭にて、ユニクロが支援する「Displacement Film Fund(難民映画基金)」に関するパネルイベントが、現地時間5月23日にメイン会場の「パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ(Palais des Festivals et des Congrès)」で開催された。
Displacement Film Fund(難民映画基金)は、避難を余儀なくされた映画制作者、または避難民としての経験を描いた実績のある映画制作者の活動を支援し、助成するために設立さた。ロッテルダム国際映画祭(IFFR)において、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)親善大使であるケイト・ブランシェットが発表し、マスターマインド、ユニクロ、オランダの文化支援財団ドローム・エン・ダード、慈善財団のタマーファミリー財団、難民支援NGOのアマホロ連合が創設パートナーとして名を連ねている。ヒューバート・バルス基金を運営パートナー、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を戦略パートナーとし、短編映画への助成制度のパイロット版として開始。 2025年に支援を受ける映画制作者は、ウクライナ出身のマリナ・エル・ゴルバチ、ソマリア出身のモ・ハラウェ、シリア出身のハサン・カッタン、イラン出身のモハンマド・ラスロフ、アフガニスタン出身のシャフルバヌ・サダトの5名だ。
パネルイベントの登壇者は、女優であり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)親善大使であるブランシェット、支援を受ける映画監督のゴルバチとハラウェ、ゲストにニューヨーク近代美術館(MoMA)映画部門チーフキュレーターのラジェンドラ・ロイを迎え、ロッテルダム国際映画祭のマネジメントディレクターのクレア・スチュワートによる進行のもと、映画制作と難民支援の接点について語り合った。
本基金は、ブランシェットとヒューバート・バルス基金が、1月のロッテルダム国際映画祭(IFFR)において共同で創設を発表。ブランシェットは、「映画祭は映画を祝う場であると同時に、作品をめぐる対話の場でもある」とコメント。わずか18カ月で基金の立ち上げが実現したことについて、「10年はかかると思っていたが、民間、企業、芸術家、映画祭など多様な立場からの協力が得られた」と、そのスピードと支援の広がりに驚きを示した。
この基金では、選出された5名の映画監督に対し10万ユーロを支援し、それぞれが短編映画を制作。作品は、2026年のロッテルダム国際映画祭でワールドプレミア上映される予定だ。
支援を受ける映画監督の一人であるゴルバチは、「このイニシアチブは“心からの呼びかけ”のように感じた」と述べ、自身の作品案『SilkRoad(仮題)』について「戦争によって分断された家族を描いているが、本質的には“ノーマルであること”の喪失に焦点を当てている」と語った。また、ハラウェは、「映画制作は自己表現の手段であり、ソマリアで映画を撮ることは、現地に映画産業の基盤を築くことでもある」と述べ、 2020年にソマリアで撮影を始めた際には映画制作の知識を持つ人がほとんどいなかった中、地元の人々とともに映画制作に取り組んだ経緯を共有した。
ゲストとして登壇したロイは、アカデミー賞国際長編映画賞において、難民や亡命者にも応募資格が2025年より付与されたことを紹介し、「ケイトの取り組みについて(柳井)康治さんから話を聞き、これは意識を高める絶好の機会だと感じた」と基金設立による影響を語った。
また、同基金が短編映画という形式を採用したことについて、ブランシェットは「短編映画にはダイナミズムがあり、深い実験精神が宿っている。それは観客にとっても刺激的な形式です」と述べ、ハラウェも「短編映画は長編へのステップではなく、独立した表現形式であることが非常に重要です。短編だからこそ語ることができるストーリーがある」と力強く語った。
パネルの最後に、ブランシェットは「観客は、これらの作品で非常にエキサイティングな体験をすることになるでしょう。これから生まれてくる素晴らしい作品を、多くの人に届ける足場づくりに協力してくれる人を私たちは探しています」と呼びかけ、イベントを締めくくった。
本パネルイベントを受け、株式会社ファーストリテイリング取締役グル ープ上席執行役員柳井康治は、「カンヌ国際映画祭のような権威ある映画祭において、難民映画基金のパネルを公認で行うことができたことへの、彼らの賛同とサポートに感謝しています。現時点で我々が支援できる規模は限られていますが、今回のようなイベントを通して映画に関わる方々に気づきを与えることができたら嬉しく思います。自分たちが想像をしないところで、同じような考え方を持つ方々が出てきて、同じような活動をしてくれることも歓迎したいです。今回支援する5名の映画監督から、短編映画という形式でどのような作品が生まれ てくるか、非常に楽しみにしています」と述べた。