『しあわせは食べて寝て待て』“司”宮沢氷魚が団地を旅立つ 直面する“介護”という問題

 鈴と透子が離れて暮らしているのも同じような理由なのだろう。さとこや司(宮沢氷魚)といる時は天真らんまんでチャーミングな鈴も、透子とはついお互いに棘のある言葉をかけてしまう。親子だから分かり合えるなんてのは幻想で、むしろ親子だからこそ自分の気持ちを押し付けてしまい、すれ違ってしまうことも多く、物理的な距離がある方が案外うまくいくことも多い。

 ただ、介護をどうするかという問題もある。透子は鈴に老人ホームへの入居を勧めるが、鈴は生まれ育った団地で余生を過ごしたいと願っていた。そこで、司に「ここで母の面倒を見てほしいの」と封筒に包まれた大金を渡す透子。そのお金があれば、司は働かなくても済み、鈴とも一緒に暮らしていける。でも、司は鈴との暮らしを”義務”にしたくはなかったのだろう。透子の申し出を断った司だが、元気に見えても鈴は90歳。誰かの助けを借りることもこれから増えてくる。無償ならばいいという問題でもないだろう。司はもちろん、鈴にとってもそれは気持ちの上で苦しみが伴う。だから、今がそのタイミングだった。

 さとこは部屋の取り決め成立を祝って司と鈴と食事をする。司が何か言ったわけではないが、これが3人での最後の晩餐になることを誰もがわかっていた。いつもと同じ場所、普段と変わらないご飯に、安心感のあるやりとり。このドラマで何度も見てきた光景なのに胸がぎゅっと締め付けられるのは、3人の言葉にならない寂しさが充満しているからだ。でも、さとこも鈴も司を引き止めようとはしなかった。引き止める理由がなかった。しょせん他人同士だから、お互いを縛ることはできない。そう言うと冷たく聞こえるかもしれないが、他人同士だからこその良さもまたある。自分を労わりながら誰かを労わる、ちょうどいい“塩梅”の距離感にさとこもまた救われてきた。他人同士は寂しくて温かい。その良さが詰まった団地暮らしをさとこはどのように守っていくのだろうか。

■放送情報
ドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~放送
出演:桜井ユキ、宮沢氷魚、加賀まりこ、福士誠治、田畑智子、中山雄斗、奥山葵、北乃きい、西山潤、土居志央梨、中山ひなの、朝加真由美
原作:水凪トリ『しあわせは食べて寝て待て』
脚本:桑原亮子、ねじめ彩木
音楽:中島ノブユキ
演出:中野亮平、田中健二、内田貴史
制作統括:小松昌代(NHK エンタープライズ)、渡邊悟(NHK)
写真提供=NHK

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